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[PPS13-P07] 月の衝突盆地地下密度構造の時空間変化
キーワード:衝突盆地、インバージョン、粘弾性変形
月の大規模地形である衝突盆地は過去の巨大衝突の痕跡であり、そのような巨大衝突は月の表層や内部構造の進化に大きな影響を及ぼしている。すなわち衝突盆地の理解は、月の進化過程を理解するうえで必須である。現在、月探査機GRAILの全ミッションフェーズの観測データの解析により、月の重力場は球面調和関数900次まで展開されたモデルが公開されており [Lemoine et al., 2014 ; Konopliv et al., 2014]、月内部の情報を、従来よりも詳細に取得可能になった。本研究では、GRAILの高解像度重力モデルを用いて月の衝突盆地下のモホ面構造の起伏形状を算出し、議論する。地形データは球面調和関数1080次に展開されたモデル (モデル名:LRO_LTM01_PA_1080) [Neumann, 2013] を用いる。ブーゲー異常は球面調和関数900次に展開された重力ポテンシャル係数データ (モデル名:GRGM900C) [Lemoine et al., 2014] と地形データから計算する (補正密度2560 kg/m3、計算最大次数600次)。本研究ではマントル密度は3360kg/m3 [Ishihara et al., 2009]、地殻密度はHan et al. (2014)で求められた地殻密度の範囲で、Wieczorek and Phillips (1998)の重力インバージョンより全球的なモホ面の厚さ分布を求め、アポロ12∙14号地点の地殻厚が同地点の月震の解析から算出された地殻厚 [Khan and Mosegaard, 2002; Lognonne et al., 2003] に最も調和的になる2750 kg/m3を採用した。下方接続フィルタが1/2になる次数は100次、計算最大次数は600次とした。この手法で算出した密度構造は、以降Global modelと称する。角柱モデリングを用いた重力インバージョン [Rama Rao et al., 1999] により、フィルタリングの制約条件を受けない局所的な密度構造を決定した。地殻・マントル密度はGlobal modelと同様で、角柱は水平方向に10km×10kmの大きさを持つ四角柱とした。初期境界深さは各解析領域内における、Global modelによるモホ面深さの最深点とし、角柱が到達する最浅点は地形面における最深点とした。なお、密度境界面が地形面を突き破らないよう制約条件を課している。この手法で算出した密度構造を、以降Prism modelと称する。Prism modelの断面構造を定量的に評価するため、以下の手法をとった。まず各衝突盆地毎にPrism modelの10間隔、360平均の断面構造プロファイルを作成し、高ブーゲー異常域[Neumann et al., 2015]の1.5倍の領域に切り取る。得られた断面構造プロファイルのうち、中心から高ブーゲー異常域の半径[Neumann et al., 2015]までを「内側領域」とし、高ブーゲー異常域半径より外側の範囲を「外側領域」とする。中心から断面構造プロファイルの深度幅のうち上位15%に含まれる点までの距離をD_upper、中心から外側領域のデータ点より得られた1次近似直線と断面構造プロファイルの交点までの距離をD_lowerとする。最後にD_upper/D_lowerの比(=D_upper/D_lower)を算出し、各衝突盆地で得られたPrism modelの形状の定量的な評価とする。D_upper/D_lowerの値を全球的に比較すると、その値は盆地の空間スケールに正の相関を持ち、表側に値の大きい盆地、裏側に値の小さい盆地が偏在するといった分布の地域性を持つように見える。なお、後者は月面の元素分布による区分 [Jolliff et al., 2000] や長期粘弾性変形計算による地温勾配上限値 [Kamata et al., 2013] より推察される月の内部温度構造の地域性と調和的であることから、衝突盆地形成後の内部温度構造の違いを反映していると考えられる。講演では、本研究で得られた衝突盆地地下密度構造の形状の違いを支配する要因が、「盆地の空間スケール」と「内部温度構造」のどちらであるのか、長期粘弾性変形計算から得た結果を交え考察する。