日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS14] 宇宙における物質の形成と進化

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*橘 省吾(北海道大学大学院理学研究院自然史科学専攻地球惑星システム科学分野)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、大坪 貴文(東京大学大学院総合文化研究科)

17:15 〜 18:30

[PPS14-P01] 星間空間における宇宙風化を模擬した水素イオン照射実験

*内田 はるか1瀧川 晶1,3土`山 明1鈴木 耕拓2中田 吉則2三宅 亮1高山 亜紀子1 (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地質学鉱物学教室、2.若狭湾エネルギー研究センター、3.京都大学白眉センター)

キーワード:宇宙風化、ダスト、照射実験、星間空間

宇宙空間にはダストと呼ばれる固体微粒子が普遍的に存在する。ダストは主に進化末期星の大気外層や、超新星爆発で放出されたガスから生成されると考えられている。また、結晶質ケイ酸塩ダストは星周に存在するが、星間空間にはほとんど存在しないことが観測から分かっている。星間空間に結晶質ケイ酸塩が存在しない理由の一つに、結晶質ケイ酸塩の構造破壊による非晶質化が考えられる[1]。構造破壊の原因としては、1. 粒子同士の衝突、2. 宇宙線の照射、3. 超新星爆発の衝撃波によって加速された星間イオンの照射、4. 初期太陽系での太陽風照射、が考えられる。本研究では、星間空間におけるこのような破壊現象を広義の宇宙風化と呼ぶ。
星間空間での宇宙風化を模擬して、これまでにolivine、enstatite、diopsideなどへの照射実験が行われているが、実験の容易さから最も豊富なガス種である水素ではなくヘリウムイオンを使っているものが多い[1-4]。しかし、結晶内部の構造変化やブリスターとよばれる水ぶくれ構造の特徴は照射ガス種によって異なる可能性がある [5]。そこで本研究では、主にH+イオンの照射による構造変化の条件を定めることを目的とし、ダスト模擬物質へのイオン照射実験を行った。
星間ケイ酸塩ダストを模擬した物質として、olivine (San Carlos産)、enstatite(タンザニア産)、合成単結晶forsterite、serpentine((Mg2.8 Fe0.2)3Si2O5(OH)4)、MgSiO3組成の急冷ガラスを用いた。また、IDP、始原隕石中に豊富に含まれるとされるFeSを模擬したpyrrhotite(Fe0.9S)と、鉄隕石も用いた。試料は大きさ3×5×0.5 mmに加工し、表面は1 μm以下まで研磨後、表面を化学研磨処理した。
実験は若狭湾エネルギー研究センターで行った。加速エネルギー40keVのH2+、10keVのH2+イオンを用い、それぞれ照射量1016~1018 ions/cm2および 1017 ions/cm2を照射した。照射時間が60分以上になる試料に関しては温度上昇を防ぐため水冷ステージを利用した。照射後の試料は走査型電子顕微鏡(SEM)により表面構造の変化を観察した。
olivine、enstatite、forsterite、serpentine、pyrrhotite表面にブリスターの生成が認められた。40keV H2+イオンを照射した場合、ブリスターが生成する照射量は、olivine、enstatite、serpentine、pyrrhotiteに関しては1018 ions/cm2以上で、forsteriteは1017 ions/cm2以上であった。鉄隕石とMgSiO3ガラスには表面変化は観察されなかった。10keV H2+イオンを照射した場合、すべての試料から表面変化は観察されなかった。olivine, forsterite, serpentine, pyrrhotiteのブリスターは楕円形状であった。同一試料上のブリスターサイズはほぼ均一であったが、forsterite上のブリスターが最も小さく100 nmほどの大きさで、olivineとpyrrhotiteのブリスターは約3 μm、serpentineはやや大きく4-5 μmほどであった。enstatiteには波状の形状をしたブリスターが数μmの間隔で並んでいるような構造がみられた。
Matsumoto (2014)は鉄含有量の多いolivine試料に対して10 keV H2+イオンを1017 ions/cm2照射し、ブリスター生成を示した [4]が、本研究では同様条件でブリスターを確認できなかった。これは試料の鉄含有量の違いに起因すると考えられ、鉄を多く含むolivineの方が構造が破壊されやすいことを示唆する。enstatiteに関しては、40keV H2+イオンの照射でブリスター形成に必要な照射量は、先行研究で調べられた50keVのHe+イオンによる非晶質化照射料より一桁多い[2]。Pyrrhotiteに関しては、過去の1MeV Kr+イオン照射実験において結晶完全な非晶質化は認められなかったが[6]、本実験において40keV、H2+、1018ions/cm2でブリスターが生成することがわかった。これらの違いはイオン質量と大きさの違いによるものであると考えられる。
今後、照射試料の内部構造を集束イオンビーム加工および透過電子顕微鏡観察により行う予定であり、SEM観察の結果と合わせて報告する。
[1] Carrez et al. (2002), MAPS, 37, 1599-1614.
[2] Jäger et al. (2003), A&A, 401, 57-65.
[3] Demyk et al. (2001), A&A, 368, L38-L41.
[4] Matsumoto (2014), ph.D Thesis, Kyoto University.
[5] Muto and Enomoto (2005), Materials Trans., 46, 2117-2124.
[6] Christoffersen and Keller, (2011), MAPS 46, 950-969.