日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS15] アルマによる惑星科学の新展開

2016年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 A02 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*百瀬 宗武(茨城大学理学部)、奥住 聡(東京工業大学大学院理工学研究科)、小林 浩(名古屋大学理学研究科)、佐川 英夫(京都産業大学理学部)、長谷川 哲夫(自然科学研究機構 国立天文台)、座長:奥住 聡(東京工業大学大学院理工学研究科)

15:45 〜 16:00

[PPS15-02] ALMA観測のとらえた原始星コアと原始惑星系円盤の揮発性物質

★招待講演

*相川 祐理1 (1.筑波大学計算科学研究センター)

キーワード:星間化学、原始惑星系円盤、星・惑星系形成

近年のALMA観測で見えてきた星・惑星系形成過程における揮発性物質の組成やその進化について、関連する他の望遠鏡での観測や理論モデルとともに概観する。
太陽程度の質量の星は低温・高密度の分子雲コアの重力収縮によって生まれる。冷たい分子ガス中では、気相だけでなくダスト表面でも水素付加などの反応が起こっていると考えられる。実際、赤外線の吸収バンド観測によって水や二酸化炭素、メタノールなどの氷が冷たい分子雲や原始星コアで検出されている。しかし、赤外吸収で検出できる分子種は比較的存在度が高く(水氷に対して相対存在度が10-3以上、気相の水素分子に対して10-7以上)、明確な吸収バンドを持つものに限られる。原始星の誕生が誕生すると、それまでダスト表面に凍結していた様々な分子が原始星からの加熱によって昇華し、電波で観測できるようになる。原始星コア中心部では、ALMA以前の電波観測で既に様々な大型有機分子や炭素鎖分子が観測されていた(Ceccarelli et al. 2007; Sakai et al. 2008)。ALMAでの原始星コア観測では、まずScience Verification Programにおいて、最も簡単な糖であるGlycolaldehydeが検出された(Jorgensen et al. 2012)。一般的に原始星コア中心での大型有機分子の分布は非常にコンパクトであり(Taquet et al. 2015)、その存在度の定量的な評価にはALMAによる高空間分解能観測が必要である。Herschel やIRAM干渉計での観測ではコア中心で昇華した水分子の同位体比D2O/HDO/H2O比も測られている(Coutens et al. 2014)。HDO/H2O比が~1.7×10-3であるのに対し、D2O/HDO比は~1.2×10-2と7倍高い値となっている。この重水素比は、星間空間での水の生成が分子雲形成時と高密度分子雲コアの2段階で起きたと考えると自然に説明できる(Furuya et al. 2016)。一方、一酸化炭素、炭素鎖分子、一酸化硫黄などのALMA観測では、原始星周囲での円盤形成過程が見えてきた(Sakai et al. 2014a; 2014b; Ohashi et al. 2014)。特に一酸化硫黄は、位置-速度図から原始星を取り巻くリング状に分布すると考えられ、分子雲から円盤へのガス降着による衝撃波領域をとらえている可能性がある。
エンベロープの散逸した原始惑星系円盤(Class II天体)においては、ALMAでの高空間分解能観測によって輝線強度の空間分布が明らかになってきた。円盤化学組成の理論モデルとしては、円盤を厚さ方向に光解離層、温かい分子層、凍結層の3層に分類する3層モデル(Aikawa et al. 1999; Aikawa et al. 2002; Bergin et al. 2007)が考えられてきたが、Rosenfeld et al. (2013)はCO観測で得られたchannel mapで、初めてこの鉛直構造を捉えた。また、半径方向に円盤を空間分解した観測も多く行われている。特にN2H+やDCO+はリング状の強度分布を示し、COのsnow lineとの相関が示唆されている(Qi et al. 2013; Matthews et al. 2013; Oberg et al. 2015; Aikawa et al. 2015)。理論モデルによるとN2H+は円盤中心面での電離率を探る良い指標でもある(Cleeves et al. 2015; Aikawa et al. 2015)。より複雑な分子の観測としては、大型有機分子であるアセトニトリル(CH3CN)の初検出が挙げられる(Oberg et al. 2015)。アセトニトリルは気相反応でもダスト表面反応でも生成されるが、ダスト表面反応まで含むモデルのほうが、同時に観測されたHCN, HC3Nとの存在比をよく説明できる。また、様々な輝線で詳細な観測、モデル化の行われている有名天体TW Hyaにおいては、HD輝線とCO輝線強度の比較などから、一酸化炭素がその昇華温度を超える温かい領域でも1-2桁減損している、つまりほとんどの一酸化炭素が化学反応によって他の分子に変換されているのではないかという議論が進んでいる(Favre et al. 2013)。理論モデルにおいては、数10Kの領域で一酸化炭素がより昇華温度の高い二酸化炭素、メタノール、炭化水素の氷に変換される現象が知られている(Aikawa et al. 1999; Bergin et al. 2014; Furuya et al. 2014)。一酸化炭素は通常、最も存在度の高い炭素系分子であるから、一酸化炭素の減損が明らかになれば、それは円盤内の炭素の主要形態の変化を意味する。