日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

インターナショナルセッション(ポスター発表)

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG21] Recent advances and future directions in slow earthquake science

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*伊藤 喜宏(京都大学防災研究所)、Brudzinski Michael(Miami University)、安藤 亮輔(東京大学大学院理学系研究科)、廣瀬 仁(神戸大学都市安全研究センター)、Thomas Amanda(University of Oregon)

17:15 〜 18:30

[SCG21-P05] A tentative investigation to detect past activities of deep low-frequency tremor from the paper recording of the Kanto-Tokai observation network for crustal observation

*松澤 孝紀1武田 哲也1 (1.独立行政法人 防災科学技術研究所)

キーワード:deep low-frequency tremor, paper recording, slow slip event

南海トラフ沿いでは,深部低周波地震が数か月間隔で繰り返し活発化しており,現在防災科研Hi-netの地震計等の解析から,その活動状況が明らかにされている.しかしながら,Hi-netの運用開始は2000年10月からであるため,それ以前の活動を知るためには別の記録が必要となる.防災科研は1979年から関東・東海地殻活動観測網の定常処理を開始しており,その後も順次観測点が増加している(Okada et al., 2000).この観測網の上下動成分の連続地震波形は,ペンレコーダーによる紙記録として,防災科研内に保管されている.まず,この記録を用いて,2000年以前の深部低周波微動の活動状況の把握が可能かを検討した.また,これらの紙記録については膨大な冊数となるために保管場所確保の問題があり,記録の電子ファイル化についても検討を行った.以下,これらの結果について報告する.
東海地方の短期的スロースリップイベント(SSE)の活動については,1984年以降の歪計記録を用いて検出が行なわれ,結果が報告されている(小林他,2006).短期的SSEの発生時には,微動の活発化がみられることから,小林他により短期的SSEが報告されている期間の前後について紙記録を確認したところ,数ヘルツに卓越する振動が継続するような,深部低周波微動に特徴的な波形が,下山観測点をはじめとして,串原,東栄等の東海地方の観測点で認められた.例えば,小林他(2006)では,短期的SSEの期間は1984年8月13~14日,1986年12月3~4日,1987年5月8~12日と報告されているが,比較的明瞭に微動の波形がみられる下山観測点の記録からは,1984年8月13~16日,1986年12月4~5日,1987年5月8~10日に活動が認められた.微動の活動領域は移動し,地震計と歪計の位置は20 kmほど離れているため,歪計の記録の期間と地震計の活動期間の数日のずれは,こうした時空間的な活動状況に起因すると考えられる.また,振幅は数百nm/s程度であり,Hi-net整備以降に捉えられた微動の振幅と同程度である.
次に微動活動が確認された下山観測点の紙記録について,電子画像ファイル化を検討した.画像ファイル化にあたっては,適切な解像度等を選択する必要がある.下山観測点における紙送り速度は4 mm/sであり,紙上の1 mmの振幅が336 nm/sに相当する.解像度が300dpiの場合,1ピクセルは約0.085 mmであることから,時間方向の分解能は約47Hzサンプリング相当となる.また,振幅については1ピクセルが約28 nm/s相当となる.低周波微動の特徴的な周波数は数Hzであり,振幅は数百nm/sであるから,300dpi程度の解像度であれば,実用上問題ない.ただし,観測点により振幅の設定が異なるため,この数値はすべてについて共通のものではない.また,ペンと背景の境界は明瞭であるため,階調は白黒2値で十分と考えられる.
画像化の作業時間は,確認を含め,1観測点1日分で5分程度は必要であった.下山観測点は1980年5月から観測を開始しており,Hi-net運用開始までの約20年間のデータの画像化には,単純計算で600時間を超える作業時間となる.この紙記録はもはや得ることのできない貴重なものであるが,関東・東海観測網の高感度地震計設置点は1985年で66点となっており,もしすべての記録を画像化する場合には,多くの作業が必要となる.