日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG56] 岩石・鉱物・資源

2016年5月26日(木) 10:00 〜 10:30 201B (2F)

コンビーナ:*野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)、三宅 亮(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地質学鉱物学教室)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)、齊藤 哲(愛媛大学大学院理工学研究科)、座長:野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)

10:15 〜 10:30

[SCG56-02] 中部沖縄トラフ野甫サイトにおける熱水性鉱物の鉱物学的特徴

*戸塚 修平1石橋 純一郎2野崎 達生3島田 和彦2 (1.九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻、2.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、3.海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)

キーワード:伊平屋小海嶺、海底熱水鉱床、フランジ構造、NT15-02航海、NT15-13航海

沖縄トラフ伊平屋北海丘と伊是名海穴のほぼ中間に位置するサカイ熱水域内には,CLAMサイト,ヒトシサイト,野甫サイトの3つの熱水サイトが確認されている.これらのうち野甫サイトは,2014年にその存在が報告された比較的新しい熱水サイトである.野甫サイトの水深は約1,600 mと沖縄トラフの熱水サイトの中では最深クラスである.また,熱水の温度も沖縄トラフにおける最高温度の338℃(Yubikuwaeチムニー)が記録されている.野甫サイトの発見からこれまでに数回の潜航調査が行われてきたが,チムニーやマウンドの鉱石の詳細な鉱物記載は行われていない.本講演では野甫サイトのチムニーおよびマウンドの鉱石試料の記載学的・鉱物学的特徴について報告する.
野甫サイトの北部に位置するヒトシサイトにおいては溶岩流に類似した構造を持つ母岩が露出している部分が多いのに対し,野甫サイトは大部分の海底が堆積物に覆われている.野甫サイトではマウンドが東北東~西南西方向に三列に分布しており,比高10 mを超える多くのマウンドが確認されている.野甫サイトのチムニーで特徴的なものとして,フランジ構造と呼ばれる庇(ひさし)状の構造物を伴ったものがある.マウンドの裾野からの高さが推定45 mにも達するYakushijiチムニーもフランジ構造を持ち,庇の下から熱水噴出が確認されている.
本研究ではNT15-02およびNT15-13航海において得られた試料を使用した.脆弱な試料が多かったため,エポキシ系の樹脂を用いて試料の補強を行ったのちに,研磨片を作製した.これらの研磨片について反射顕微鏡による構成鉱物の同定や組織観察,EDS (Energy Dispersive x-ray Spectroscopy) およびEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)による鉱物同定,鉱物化学組成分析を行った.
顕微鏡観察の結果,多くの典型的なチムニー試料は主に磁硫鉄鉱(Fe1-XS)と閃亜鉛鉱(ZnS)から構成されており,方鉛鉱(PbS),キューバ鉱(CuFe2S3),重晶石(BaSO4),硬石膏(CaSO4)を伴うことがわかった.これらのうち閃亜鉛鉱と方鉛鉱は樹枝状組織を示しており,急冷による沈殿が示唆された.またチムニーのフランジ部分を顕微鏡下で観察すると,熱水が滞留する庇の下面からは針状の磁硫鉄鉱が下部に向かって成長している組織が確認できた.もう1つのタイプのチムニーはほとんど重晶石からなる硫酸塩チムニーであった.このようなチムニーでは,重晶石のほかにはAsやSbに富む鉱物がしばしば認められた.金属硫化鉱物はあまり認められず,少量の黄鉄鉱(FeS2)が観察される程度であった.マウンドの鉱石試料は閃亜鉛鉱が卓越し,次いで方鉛鉱,黄銅鉱(CuFeS2),キューバ鉱が多く観察された.硫酸塩鉱物としては,2次的に生じたと思われる硫酸鉛鉱(PbSO4)が多くを占めており,重晶石はわずかに認められる程度であった.
EPMAによる鉱物化学組成分析で閃亜鉛鉱のFe濃度を測定し,その値から晶出環境を推定した.野甫サイトのチムニー中に存在する閃亜鉛鉱はFe濃度が平均18.30 mol%に達しFeを大量に含んでいることが明らかになった.閃亜鉛鉱のFe濃度は,晶出環境の硫黄フガシティを推定するための有効な指標であることが知られており,高いFe濃度は還元的な環境で閃亜鉛鉱が晶出したことを示唆している.これは,沖縄トラフの他の熱水サイトの値(0~5 mol%)と比べても有意に高い値である.マウンドの鉱石に含まれる閃亜鉛鉱のFe濃度は平均で8.95 mol%を示し,チムニー試料ほどではないにしろ,沖縄トラフの他の熱水サイトに比べ高い値であった.
本研究において頻繁に観察された磁硫鉄鉱+キューバ鉱という鉱物組み合わせは野甫サイトに特徴的である.これは沖縄トラフの他の熱水サイトにおいて一般的に黄銅鉱+黄鉄鉱がCu-Fe-S系の鉱物組み合わせであるのと対照的である.また,閃亜鉛鉱の高いFe濃度も合わせると,野甫サイトは硫黄フガシティが非常に低く,硫化鉱物の晶出環境が還元的であることを示唆する.野甫サイトにおいて観測されている熱水の温度が338℃に達する高温であることから,沖縄トラフの他の熱水サイトと比べても,銅,鉛,亜鉛などに富んだ硫化物鉱床の存在が期待される.