11:00 〜 11:15
[SCG56-04] 早池峰−宮守オフィオライト中の超苦鉄質貫入岩を用いたオルドビス紀のマントルポテンシャル温度推定
キーワード:島弧オフィオライト、マントルポテンシャル温度、部分溶融度、初生メルト
固体地球の進化を理解するためには、マントルの熱的状態の経年変化を見積もる必要がある。その指標のひとつにマントルポテンシャル温度がある(McKenzie and Bickle, 1988)。マントルポテンシャル温度は様々な年代に噴出したマグマの化学組成を用いて推定することができるが、拡大海嶺場あるいは非島弧場に限定して推定されてきた(Herzberg et al., 2010等)。これは、最上部マントルでの減圧融解に関係するものであるならば、その時代のマントル全域の熱状態の指標となり得るポテンシャル温度を比較的容易に推定可能だからである。島弧は二つの異なるプレートが関与する場であり、そのマグマ生成には沈み込みスラブから供給される水が大きく影響する。複雑なテクトニクスが関与する上に水の効果を無視できない島弧場でのポテンシャル温度の推定は避けられてきた。しかしながら、全球の熱史の解明には、時代的に連続的なデータの蓄積が必要であり、たとえ島弧場でもマントルポテンシャル温度を見積もる必要がある。
オフィオライトは海洋地殻とそのマントルセクションが地球表層へ衝上した岩体であり、その形成年代は少なくとも古原生代から近過去まで広範にわたる(Stern, 2005)。形成頻度には明瞭なピーク、オフィオライトパルスが存在し、これはマントルの熱状態の変化が反映されたものと考えられている(Abbate et al., 1985等) 。オフィオライトはマグマ生成に関する情報を持つため、その形成機構とマントルポテンシャル温度を推定することで、全球的なマントルの熱状態の経年変化を明らかにできるはずである。一方でオフィオライトの形成場についてはデータの蓄積がすすみ、前弧-背弧域におよぶ様々な沈み込み帯環境が数多く報告されている(Dilek and Furnes, 2011)。
本研究では、オルドビス紀の島弧オフィオライト: 早池峰宮守オフィオライトに見出される超苦鉄質岩脈からマントルポテンシャル温度を見積もった。岩手県北上山地に位置する南部北上帯の早池峰宮守オフィオライトは、~500Maに島弧で形成されたことが地質学的、岩石学的、地球化学的に示され、その発達過程が明らかになっている(Ozawa et al., 2015)。本オフィオライトの超苦鉄質沈積層下部には、斑状超苦鉄質岩脈が分布している(Ozawa, 1984)。本研究で解析した岩脈は、自形から半自形のかんらん石(~5 mm径, ~30 体積%)と少量の輝石(~3 mm径, ~2 体積%)を斑晶とした斑状組織をもち、~0.2mmの細粒な基質はパーガス閃石、斜方輝石、単射輝石、斜長石よりなる。母岩は斜方輝石を少量含むダナイトである。岩脈には多数の枝分かれが認められ、一部には斑晶の形態配向と岩脈中心付近への斑晶の濃集が観察され、マグマの貫入流動過程が凍結されている。これらから岩脈は液体状態で貫入し、その場で流動分別状態を維持する程度に急速に閉鎖系を維持して固化したことが示唆される。同一岩脈中の斑晶量が異なる部位で全岩化学組成を分析し、変成・変質作用と母岩との間に生じた元素拡散による組成改変効果を補正した。その結果、全岩化学組成はハーカー図上で直線上のトレンドを示し、2成分の混合によって形成されたものであることがわかる。トレンドの一端成分は、かんらん石組成に向かっている。推定したかんらん石の平均組成を、各岩石について全岩組成からモード量だけ減じると、ほぼ一定の化学組成に集中するようになり、これが母岩貫入時のメルト組成であることを示している。岩体に存在する角閃石量から予想されるメルトの含水量は約1.5wt%と推定される。さらにかんらん石の分別効果を補正することで、初生メルト組成を決定し、溶融温度圧力条件、部分融解度、マントルポテンシャル温度を推定した。
オフィオライトは海洋地殻とそのマントルセクションが地球表層へ衝上した岩体であり、その形成年代は少なくとも古原生代から近過去まで広範にわたる(Stern, 2005)。形成頻度には明瞭なピーク、オフィオライトパルスが存在し、これはマントルの熱状態の変化が反映されたものと考えられている(Abbate et al., 1985等) 。オフィオライトはマグマ生成に関する情報を持つため、その形成機構とマントルポテンシャル温度を推定することで、全球的なマントルの熱状態の経年変化を明らかにできるはずである。一方でオフィオライトの形成場についてはデータの蓄積がすすみ、前弧-背弧域におよぶ様々な沈み込み帯環境が数多く報告されている(Dilek and Furnes, 2011)。
本研究では、オルドビス紀の島弧オフィオライト: 早池峰宮守オフィオライトに見出される超苦鉄質岩脈からマントルポテンシャル温度を見積もった。岩手県北上山地に位置する南部北上帯の早池峰宮守オフィオライトは、~500Maに島弧で形成されたことが地質学的、岩石学的、地球化学的に示され、その発達過程が明らかになっている(Ozawa et al., 2015)。本オフィオライトの超苦鉄質沈積層下部には、斑状超苦鉄質岩脈が分布している(Ozawa, 1984)。本研究で解析した岩脈は、自形から半自形のかんらん石(~5 mm径, ~30 体積%)と少量の輝石(~3 mm径, ~2 体積%)を斑晶とした斑状組織をもち、~0.2mmの細粒な基質はパーガス閃石、斜方輝石、単射輝石、斜長石よりなる。母岩は斜方輝石を少量含むダナイトである。岩脈には多数の枝分かれが認められ、一部には斑晶の形態配向と岩脈中心付近への斑晶の濃集が観察され、マグマの貫入流動過程が凍結されている。これらから岩脈は液体状態で貫入し、その場で流動分別状態を維持する程度に急速に閉鎖系を維持して固化したことが示唆される。同一岩脈中の斑晶量が異なる部位で全岩化学組成を分析し、変成・変質作用と母岩との間に生じた元素拡散による組成改変効果を補正した。その結果、全岩化学組成はハーカー図上で直線上のトレンドを示し、2成分の混合によって形成されたものであることがわかる。トレンドの一端成分は、かんらん石組成に向かっている。推定したかんらん石の平均組成を、各岩石について全岩組成からモード量だけ減じると、ほぼ一定の化学組成に集中するようになり、これが母岩貫入時のメルト組成であることを示している。岩体に存在する角閃石量から予想されるメルトの含水量は約1.5wt%と推定される。さらにかんらん石の分別効果を補正することで、初生メルト組成を決定し、溶融温度圧力条件、部分融解度、マントルポテンシャル温度を推定した。