日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG56] 岩石・鉱物・資源

2016年5月26日(木) 10:45 〜 12:15 201B (2F)

コンビーナ:*野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)、三宅 亮(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地質学鉱物学教室)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)、齊藤 哲(愛媛大学大学院理工学研究科)、座長:土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)、齊藤 哲(愛媛大学大学院理工学研究科)

11:45 〜 12:00

[SCG56-07] 珪長質メルト-かんらん岩反応による高 Na, 高 Mg# メルトの形成:
北海道曲り沢かんらん岩体に見られる珪長質脈の例

*山下 康平1,2前田 仁一郎3芳川 雅子4柴田 知之4山崎 徹2 (1.北海道大学大学院理学院自然史科学専攻、2.産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門、3.北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門、4.京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)

キーワード:珪長質メルト-かんらん岩反応、アップヒル拡散、日高火成活動帯

沈み込み帯の火山岩に伴われるマントルかんらん岩捕獲岩中には,Na に富む珪長質な脈やガラスが含まれる場合がある(例えば, Shimizu et al., 2004).これらの珪長質脈やガラスは,かんらん岩にトラップされたスラブメルトであると解釈される場合が多い(例えば, Kepezhinskas et al., 1995).しかし一方で,かんらん岩と珪長質メルトの反応により高い Na2O 含有量のメルトが形成されるという報告もあり(例えば, Prouteau et al., 2001), それらの成因は明らかでない.
北海道の日高山脈北部に露出し,主に Pl lherzorite から構成される曲り沢かんらん岩体には,かんらん岩に貫入した珪長質脈が観察される.珪長質脈の厚さは顕微鏡オーダーの微小なものから最大50-60 cm で,以下に述べるように多様な岩相,化学組成を示す (Yamashita et al., 2015, JpGU abstract).これらの珪長質脈,およびかんらん岩と珪長質脈の境界部に見られる反応帯の観察・分析により,かんらん岩との反応による珪長質メルトの組成改変プロセス,特に高 Na な組成を獲得するプロセスについて検討した.
同岩体に見られる珪長質脈は,大きく以下の4タイプに区分される: (1) 2Px Granite (Qz, Kfs, Pl, Opx, Cpx); (2) Opx Monzodiorite (Qz, Kfs, Pl, Opx); (3) Norite (Pl, Opx); (4) Pl-veinlet (2Px Graniteおよび Opx Monzodiorite から連続的に延長する,厚さ数 mm から顕微鏡オーダーの薄い脈. Pl, Opx). 鏡下の特徴と全岩化学組成から,2Px Granite と Opx Monzodiorite はメルト組成を保持しているのに対し,Norite と Pl-veinlet は Pl-Opx cumulate であると考えられる.
珪長質脈の Sr, Nd 同位体初生比は全て,周辺地域に露出する pelitic granulite やその anatexite の同位体組成 (Maeda and Kagami, 1996) と区別できない.このことは,様々な岩相を示す珪長質脈が全て,pelitic granulite の部分溶融メルトから形成されたことを強く示唆する.
これらの珪長質脈のうち Opx Monzodiorite は,比較的高い SiO2 含有量 (62-64 wt%) に加え,著しく高い Mg#, Na2O 含有量を示すことにより特徴づけられる (それぞれ, 6-7 wt%, 74-82).それに対し,珪長質脈の起源メルトと類似した組成を示すと予想される,日高山脈南部に露出する pelitic granulite の部分溶融実験により得られたメルト組成(小山内ほか,1997)は低い Mg# と Na2O 含有量を示す.このことは,曲り沢岩体において pelitic granulite の部分溶融メルトが大規模な組成改変を被ったことを強く示唆する.曲り沢岩体における珪長質メルトの組成改変プロセスとしては,Pl + Opx (つまり, Norite や Pl-veinlet) の結晶分別作用や初生メルト-かんらん岩反応が想定される.しかし,Eu の負の異常が見られないことから Pl の分別を経験したとは考えにくく,高い Na2O 含有量は主にかんらん岩との反応によって獲得されたものと考えられる.
珪長質脈とかんらん岩の境界部には必ず,主に Opx からなる厚さ 1 mm 程度の反応帯 (Opx-wall) が形成されている.また,Opx Monzodiorite と Opx-wall の境界部には Phl が特徴的に形成される.それに対し,Opx Monzodiorite から連続的に延長する Pl-veinlet では,脈と Opx-wall の境界部に high-Ca# Pl + vermicular Opx ± Phl からなる厚さ 1 mm 程度の領域 (vermicular zone) が形成される.Vermicular zone は,近接するかんらん岩中の鉱物種にかかわらず必ず形成されている.このことは,vermicular zone 中の high-Ca# Pl (Ca#~90) がかんらん岩中の CaO に富む鉱物 (Cpx と Pl) からのCaO の供給により形成された可能性を否定する.
以上の観察結果に基づき,曲り沢岩体におけるかんらん岩と珪長質メルトの反応による high-Mg#, Na-rich (Opx Monzodiorite 質) メルトの形成プロセスを提案する:
(1) かんらん岩中へ初生メルト (melt1) が侵入し,両者の境界に Opx-wall が形成される.
(2) (1) と同時に,melt1へかんらん岩成分 (Mg, Fe) が拡散することにより,かんらん岩と melt1 の境界部には局所的に,相対的に SiO2 に乏しいメルト (melt2) が形成される.
(3) SiO2 に富むメルトと乏しいメルトの間の拡散が起こる時,アルカリ元素は SiO2 に富むメルトに濃集する (uphill diffusion: 例えば, Sato, 1975). このプロセスにより Na と K は,melt1 と melt2 の間に組成勾配 (melt1 > melt2) があるにもかかわらず, それに逆らい SiO2 に乏しい melt2 から SiO2 に富む melt1 へ拡散する.Na, K 以外の元素 (Si, Mg, Fe, Ca など) は濃度勾配に従った拡散をするため,melt1 はより低 SiO2, 高 Mg# になっていく.
(4) 以上のプロセスにより,melt1 は元の組成よりも 高 Mg#, 高 Na2O (及び K2O) 含有量になる. High-Ca# Pl を含む vermicular zoneは,元の組成よりも Na に乏しくなった melt2 の組成を反映している可能性がある.