日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG56] 岩石・鉱物・資源

2016年5月26日(木) 13:45 〜 15:15 201B (2F)

コンビーナ:*野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)、三宅 亮(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地質学鉱物学教室)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)、齊藤 哲(愛媛大学大学院理工学研究科)、座長:野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)、三宅 亮(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地質学鉱物学教室)

14:00 〜 14:15

[SCG56-10] 極微量元素の高確度電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)定量分析のための高確度X線計数システムの開発

*加藤 丈典1 (1.名古屋大学宇宙地球環境研究所)

キーワード:電子プローブマイクロアナライザー (EPMA)、不感時間補正、X線分光分析、波長分散型分光器 (WDS)、比例計数管

電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)で極微量元素の定量分析を行うためには、未知試料の大電流・長時間測定が必要になる。EPMAの電流計は直線性が保証される範囲が限定されるため、正確な化学組成を求めるためには標準物質も未知試料と同じ大電流で測定することが望ましい。
EPMAの波長分散型分光器は一般的に比例計数管でX線を検出する。比例計数管には不感時間があり、数え落としが生じる。そのため、X線の計数値から真のX線強度を推定するため、不感時間補正を行う必要がある。不感時間による数え落としはX線強度が強いほど多くなるため、大電流で濃度の高い標準物質を測定する場合には不感時間補正の正確さが定量分析の正確さに直接影響する。不感時間は検出器ごとに異なり、波高分析器の設定にも依存する。また、経年変化によっても変化する(EPMAで使用される比例計数管の寿命を5年程度とすると、不感時間は1μ秒以下から2μ秒程度まで変化しうる)。そのため、定期的に測定条件にあわせて正確に不感時間を測定し、適切なモデルによって不感時間補正を行わなければ、微量元素測定を正確に行うことはできない。そのため、不感時間補正が不適切であれば、数%程度の誤差が発生しうる。
EPMAでは不感時間が非拡張不感時間モデルとみなし、照射電流とX線強度の関係から測定する手法がある[1]。しかし、電流計の非直線性のため正確に測定できる電流に制限があるため、精度に限界がある。また、経年変化を正確に予測することが困難であるため、常に正確であることを保証することは難しい。そこで、長期間安定して不感時間を一定と見なすことができるようにするシステムを開発した。
厳密な固定不感時間システムは大規模なものになるため、EPMA分析による定量分析に目的を限定して、疑似的に無調整で長期にわたり不感時間が変化しないとみなせるシステムを設計した。本研究では、波高分析器の出力に単安定マルチバイブレーターを挿入する手法を試みた。X線発生過程がポアソン分布に従うことから、このシステムはモンテカルロシミュレーションにより正確に挙動を予測できる。もっとも単純な、単安定マルチバイブレーターを1つだけ挿入する回路でも、100kcpsまでの計数率であれば、波高分析器出力段の不感時間が0.8μ秒から1.4μ秒まで変化しても0.5パーセント未満の誤差で不感時間補正が可能であることが明らかになった。この手法であれば、単安定マルチバイブレーターのパルス幅さえわかれば、不感時間補正に必要なパラメーターを正確に求めることが可能である。
[1] Heinrich, K.F.J., Vieth, D. & Yakowitz, H. (1966) Adv. X-ray, Anal., 9, 208.