14:45 〜 15:00
[SCG56-13] TEM-ALCHEMI法による珪線石のAl/Si秩序度測定
キーワード:アルケミ法、珪線石、Al/Si無秩序化
はじめに
珪線石(空間群:Pbnm)は、Al2SiO5多形の一つであり、温度・圧力の指標となるため地球科学的に非常に重要な鉱物である。珪線石は結晶構造中にc軸方向に伸長した (Al,Si)O4四面体ダブルチェインを持ち、四面体サイト中のAl/Siは交互に秩序的に配列しているが、このAl/Siは高温で無秩序化すると考えられている(e.g. Greenwood, 1997)。実際に天然からも、Miyake et al. (2008) によりNapier岩体中の珪線石にAl/Siの無秩序化に由来すると考えられる反位相境界様組織が報告され、1000℃以上の超高温の指標となりうることが提案されている。
しかし、珪線石のAl/Si無秩序度の定量には困難が多く、古くから研究されているもののあまり進んでいるとは言えない。最も大きな問題点として、珪線石とムライトとの分離の必要性が挙げられる。高温で加熱された珪線石中には、珪線石によく似たムライト(Al2[Al2+2xSi2-2x]O10-x)相が析出することがTomba et al. (1999)の実験などで明らかになっている。珪線石とムライトはAl/Siの組成比が若干異なるものの結晶構造が非常に似ており、格子定数は1%程度の差しかない。そのため、バルクからの実験データを二相に分離するのは困難であり、事前に分離した上での実験が求められる。また、AlとSi はX線散乱能が近いために、そもそもX線回折実験でのAl/Si秩序度定量が難しいといった要因もある。いずれにせよ、実験には何らかの工夫が求められる。
一方、Taftø & Buseck (1983)は、TEM-ALCHEMI (Atom-location by channeling-enhanced microanalysis)法を用いて、長石中のAl/Si秩序度の定量を試みている。ALCHEMI法とは、透過型電子顕微鏡(TEM)とEDSなどの分光法を用いた元素位置決定手法であり、結晶中での電子線の回折効果による異常透過・異常吸収(電子チャネリング効果)を利用したものである。この手法ではTEM下で数μm程度の領域から測定が可能なため、析出物などを避けて任意の領域にて測定することが可能である。また、EDSなどの分光法を用いるため、AlとSiのような原子番号の近い元素も十分分離して検出可能である。さらに近年、Yasuda et al. (2006, 2007) では、イオン照射を受け構造の破壊されたスピネルに対し、TEM-ALCHEMI を発展させたHARECXS (High Angular Resolution Electron Channeling X-ray Spectroscopy) と呼ばれる電子線入射を連続的に変化させて特性X線強度を取得する手法を用い、定量性を高めることに成功している。
そこで本研究では、様々な温度で加熱した珪線石に対してHARECXSによるALCHEMI実験を行い、各加熱温度に対する珪線石中のAl/Si秩序度の解析を試みた。
手法
試料は、南極Rundvågshetta産珪線石結晶を出発物質とし、箱型電気炉にて790-1530℃で1-1751h保持・放冷したものを用いた。HARECXS分析は、TEM-EDX(JEOL JEM-2100F, JED-2300T)を用い、Al/Si無秩序化の影響が表れやすい{101}面に着目して行った。すなわち、電子線入射角を{101}面に対し垂直方向に連続的に変化させつつ約200点の特性X線を検出し、各元素のHARECXSプロファイル(横軸:入射角、縦軸:各元素の特性X線強度)を作成した。1530℃など高温で加熱した試料からは、Tomba et al. (1999)やHolland & Carpenter (1986) の実験結果と同様にムライトやガラス包有物などの組織が観察されたが、HARECXS測定ではそれらの領域を避け、均質な珪線石領域にて実施した。なお、秩序モデルと無秩序モデルでのHARECXSプロファイルのシミュレーションはあらかじめプログラムICSC (Oxley & Allen, 2003)により行っており、Al/Si秩序度の違いが確かにプロファイルに影響を及ぼすことを確認している。
結果・考察
実験の結果、全サンプルから、シミュレーション結果と類似したHARECXSプロファイルを取得することができた。また、加熱サンプルのプロファイルは、出発物質のプロファイルに比べて、無秩序モデルでのシミュレーション結果と類似した特徴が認められた。そこで、秩序モデルのシミュレーション結果と無秩序モデルのシミュレーション結果の線形結合によって各測定プロファイルの再現を試みたところ、すべてのプロファイルでよいfitting結果が得られた。ここで、各fitting結果において、秩序モデルの寄与する割合xはAl/Si秩序度の一次近似値と考えることができる。そこで実際に、x=秩序度としたモデルでシミュレーションを行ったところ、測定プロファイルに非常に近い結果が得られ、本研究の実験・解析手法により得られるx値が秩序度として十分な信頼性を有していることが分かった。また、こうして得られた各試料の秩序度は、加熱温度が高くなるほど連続的に低下する結果も得られた。以上のことから、本研究の実験・解析手法を用いることによって、1μm程度の珪線石から最高変成温度が特定できる可能性が示された。さらに、本研究で用いた実験・解析手法は、固溶体鉱物の元素分配決定等にも有効である可能性が高く、珪線石に限らず様々な鉱物の分析や形成環境推定に大きな威力を持つ手法であることも示唆される。
珪線石(空間群:Pbnm)は、Al2SiO5多形の一つであり、温度・圧力の指標となるため地球科学的に非常に重要な鉱物である。珪線石は結晶構造中にc軸方向に伸長した (Al,Si)O4四面体ダブルチェインを持ち、四面体サイト中のAl/Siは交互に秩序的に配列しているが、このAl/Siは高温で無秩序化すると考えられている(e.g. Greenwood, 1997)。実際に天然からも、Miyake et al. (2008) によりNapier岩体中の珪線石にAl/Siの無秩序化に由来すると考えられる反位相境界様組織が報告され、1000℃以上の超高温の指標となりうることが提案されている。
しかし、珪線石のAl/Si無秩序度の定量には困難が多く、古くから研究されているもののあまり進んでいるとは言えない。最も大きな問題点として、珪線石とムライトとの分離の必要性が挙げられる。高温で加熱された珪線石中には、珪線石によく似たムライト(Al2[Al2+2xSi2-2x]O10-x)相が析出することがTomba et al. (1999)の実験などで明らかになっている。珪線石とムライトはAl/Siの組成比が若干異なるものの結晶構造が非常に似ており、格子定数は1%程度の差しかない。そのため、バルクからの実験データを二相に分離するのは困難であり、事前に分離した上での実験が求められる。また、AlとSi はX線散乱能が近いために、そもそもX線回折実験でのAl/Si秩序度定量が難しいといった要因もある。いずれにせよ、実験には何らかの工夫が求められる。
一方、Taftø & Buseck (1983)は、TEM-ALCHEMI (Atom-location by channeling-enhanced microanalysis)法を用いて、長石中のAl/Si秩序度の定量を試みている。ALCHEMI法とは、透過型電子顕微鏡(TEM)とEDSなどの分光法を用いた元素位置決定手法であり、結晶中での電子線の回折効果による異常透過・異常吸収(電子チャネリング効果)を利用したものである。この手法ではTEM下で数μm程度の領域から測定が可能なため、析出物などを避けて任意の領域にて測定することが可能である。また、EDSなどの分光法を用いるため、AlとSiのような原子番号の近い元素も十分分離して検出可能である。さらに近年、Yasuda et al. (2006, 2007) では、イオン照射を受け構造の破壊されたスピネルに対し、TEM-ALCHEMI を発展させたHARECXS (High Angular Resolution Electron Channeling X-ray Spectroscopy) と呼ばれる電子線入射を連続的に変化させて特性X線強度を取得する手法を用い、定量性を高めることに成功している。
そこで本研究では、様々な温度で加熱した珪線石に対してHARECXSによるALCHEMI実験を行い、各加熱温度に対する珪線石中のAl/Si秩序度の解析を試みた。
手法
試料は、南極Rundvågshetta産珪線石結晶を出発物質とし、箱型電気炉にて790-1530℃で1-1751h保持・放冷したものを用いた。HARECXS分析は、TEM-EDX(JEOL JEM-2100F, JED-2300T)を用い、Al/Si無秩序化の影響が表れやすい{101}面に着目して行った。すなわち、電子線入射角を{101}面に対し垂直方向に連続的に変化させつつ約200点の特性X線を検出し、各元素のHARECXSプロファイル(横軸:入射角、縦軸:各元素の特性X線強度)を作成した。1530℃など高温で加熱した試料からは、Tomba et al. (1999)やHolland & Carpenter (1986) の実験結果と同様にムライトやガラス包有物などの組織が観察されたが、HARECXS測定ではそれらの領域を避け、均質な珪線石領域にて実施した。なお、秩序モデルと無秩序モデルでのHARECXSプロファイルのシミュレーションはあらかじめプログラムICSC (Oxley & Allen, 2003)により行っており、Al/Si秩序度の違いが確かにプロファイルに影響を及ぼすことを確認している。
結果・考察
実験の結果、全サンプルから、シミュレーション結果と類似したHARECXSプロファイルを取得することができた。また、加熱サンプルのプロファイルは、出発物質のプロファイルに比べて、無秩序モデルでのシミュレーション結果と類似した特徴が認められた。そこで、秩序モデルのシミュレーション結果と無秩序モデルのシミュレーション結果の線形結合によって各測定プロファイルの再現を試みたところ、すべてのプロファイルでよいfitting結果が得られた。ここで、各fitting結果において、秩序モデルの寄与する割合xはAl/Si秩序度の一次近似値と考えることができる。そこで実際に、x=秩序度としたモデルでシミュレーションを行ったところ、測定プロファイルに非常に近い結果が得られ、本研究の実験・解析手法により得られるx値が秩序度として十分な信頼性を有していることが分かった。また、こうして得られた各試料の秩序度は、加熱温度が高くなるほど連続的に低下する結果も得られた。以上のことから、本研究の実験・解析手法を用いることによって、1μm程度の珪線石から最高変成温度が特定できる可能性が示された。さらに、本研究で用いた実験・解析手法は、固溶体鉱物の元素分配決定等にも有効である可能性が高く、珪線石に限らず様々な鉱物の分析や形成環境推定に大きな威力を持つ手法であることも示唆される。