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[SCG56-14] プロト−クライノエンスタタイト相転移における粒径および冷却速度の影響
キーワード:プロトエンスタタイト、相転移、サイズ効果、冷却速度
【はじめに】エンスタタイト(MgSiO3)多形の常圧高温での安定相であるプロトエンスタタイト(PEN, 空間群:Pbcn) は一般的には急冷不可な相であると考えられている。実際、現在までのところ天然試料中にPENが存在することを報告した例は無い。しかし、Foster(1951)、Lee and Heuer(1987)などは、実験により得られた試料から室温でのPENの存在を報告しており、天然試料の観察結果とは齟齬がある。
Smyth(1974)はエンスタタイト多形間の相転移に関する詳細な高温単結晶X線回折実験を行ない、PENの冷却が速い場合はクライノエンスタタイト(CEN, P21/c) に、冷却がゆっくりな場合はオルソエンスタタイト(OEN, Pbca)に相転移することを示し、急速に進行するPENとCEN間の相転移はマルテンサイト的であるとした。マルテンサイト変態においては一般的に粒径や応力、冷却速度といった変数が母相(高温相)の安定性に影響を与えることが知られている。PENの安定性について同様の報告があるが(e.g. Huang et al., 1994)、このことに関して定量的な議論は十分になされていない。そこで本研究では、PENが常温で残留可能となるより具体的な条件を明らかにするため、特に粒径や冷却速度に着目し、PENの冷却実験を行なった。
【実験】出発物質として小嶋(1982)に従いフラックス法により合成したOENを用い以下の実験を行った。各実験では、粉末X線回折法(XRD)により相の同定を行っている。(1)粒径依存性:粉砕した出発物質を各粒径(1.2, 5.2, 46, 87, 140, 180 μm)に分別したものをそれぞれ白金管に詰め、箱型電気炉で1200 ℃で20 hr保持した後、5 ℃/minで冷却した。 (2)冷却速度依存性:粒径1.2 μmの粉末を出発物質とし、1200 ℃, 20 hrで保持した後、6通りの速度(0.1, 1, 3, 5, 10 ℃/min, 水冷)で冷却した。
【結果・考察】(1)粒径依存性の実験では、粒径140 μm以下の試料でPENのピークが現れ、粒径が小さくなるほど室温でのPENの残留率が増加する傾向があった。これにより粒径がPENの安定性に著しい影響を与えていることが示された。また、PENが残留可能となる粒径の閾値がはっきりと決まっているわけではなく、粒径が小さくなるほどPENからCENへの相転移が起きない確率が増加していくものと考えられる。そこでChen et al. (1985) のマルテンサイト変態が起こる確率と粒子サイズの関係を表したモデル式に従って、本実験結果のPEN残留率と粒径の関係について指数関数による近似を行い、式1-F = exp(-0.026d) (1-F: PEN残留率, d:粒径) を得た。 (2)冷却速度依存性の実験では、PEN残留率は3 ℃/minの試料が最も多く、それより冷却が速くても遅くてもPEN量は減少した。冷却速度が速いほど、より多くのPENが凍結されたまま常温で残留しやすくなる傾向にある一方で、試料内温度勾配等に起因した残留応力による相転移は促進されると考えられ、この両者の要因の兼合いによりPEN残留量は決定されると考えられる。
引用文献リスト
[1]Foster (1951), J. Am. Ceram. Soc. 34[9], 255-259.
[2]Lee and Heuler (1987), J. Am. Ceram. Soc. 70[5], 349-360.
[3]Huang et al. (1994), J. Am. Ceram. Soc. 77[10], 2625-2631.
[4]小嶋 (1984), 岩石鉱物鉱床学会誌特別号3, 97-103
[5]Chen et al. (1985), Acta Metall. 33[10], 1847-1859
Smyth(1974)はエンスタタイト多形間の相転移に関する詳細な高温単結晶X線回折実験を行ない、PENの冷却が速い場合はクライノエンスタタイト(CEN, P21/c) に、冷却がゆっくりな場合はオルソエンスタタイト(OEN, Pbca)に相転移することを示し、急速に進行するPENとCEN間の相転移はマルテンサイト的であるとした。マルテンサイト変態においては一般的に粒径や応力、冷却速度といった変数が母相(高温相)の安定性に影響を与えることが知られている。PENの安定性について同様の報告があるが(e.g. Huang et al., 1994)、このことに関して定量的な議論は十分になされていない。そこで本研究では、PENが常温で残留可能となるより具体的な条件を明らかにするため、特に粒径や冷却速度に着目し、PENの冷却実験を行なった。
【実験】出発物質として小嶋(1982)に従いフラックス法により合成したOENを用い以下の実験を行った。各実験では、粉末X線回折法(XRD)により相の同定を行っている。(1)粒径依存性:粉砕した出発物質を各粒径(1.2, 5.2, 46, 87, 140, 180 μm)に分別したものをそれぞれ白金管に詰め、箱型電気炉で1200 ℃で20 hr保持した後、5 ℃/minで冷却した。 (2)冷却速度依存性:粒径1.2 μmの粉末を出発物質とし、1200 ℃, 20 hrで保持した後、6通りの速度(0.1, 1, 3, 5, 10 ℃/min, 水冷)で冷却した。
【結果・考察】(1)粒径依存性の実験では、粒径140 μm以下の試料でPENのピークが現れ、粒径が小さくなるほど室温でのPENの残留率が増加する傾向があった。これにより粒径がPENの安定性に著しい影響を与えていることが示された。また、PENが残留可能となる粒径の閾値がはっきりと決まっているわけではなく、粒径が小さくなるほどPENからCENへの相転移が起きない確率が増加していくものと考えられる。そこでChen et al. (1985) のマルテンサイト変態が起こる確率と粒子サイズの関係を表したモデル式に従って、本実験結果のPEN残留率と粒径の関係について指数関数による近似を行い、式1-F = exp(-0.026d) (1-F: PEN残留率, d:粒径) を得た。 (2)冷却速度依存性の実験では、PEN残留率は3 ℃/minの試料が最も多く、それより冷却が速くても遅くてもPEN量は減少した。冷却速度が速いほど、より多くのPENが凍結されたまま常温で残留しやすくなる傾向にある一方で、試料内温度勾配等に起因した残留応力による相転移は促進されると考えられ、この両者の要因の兼合いによりPEN残留量は決定されると考えられる。
引用文献リスト
[1]Foster (1951), J. Am. Ceram. Soc. 34[9], 255-259.
[2]Lee and Heuler (1987), J. Am. Ceram. Soc. 70[5], 349-360.
[3]Huang et al. (1994), J. Am. Ceram. Soc. 77[10], 2625-2631.
[4]小嶋 (1984), 岩石鉱物鉱床学会誌特別号3, 97-103
[5]Chen et al. (1985), Acta Metall. 33[10], 1847-1859