15:30 〜 16:45
[SCG56-P02] 海洋島玄武岩マグマ起源物質の不均質性―ラロトンガ島での事例(予察)
キーワード:海洋島玄武岩、ラロトンガ島、二次イオン質量分析法
[はじめに]
これまで,海洋島玄武岩の放射性起源のストロンチウム(Sr), ネオディミウム(Nd), 鉛(Pb)などの同位体比を用いて,ハイミュー(HIMU)やエンリッチ・マントル(EM1, EM2)といったマントル端成分の存在が議論されてきた.従来の火山岩全岩の同位体比の分析に代わって,最近ではメルト包有物を分析することによって,それぞれのマントル端成分に由来するマグマの揮発性成分の量や挙動を明らかにしようとする研究が活発になりつつある.我々は,南太平洋の海洋島であるラロトンガ島のカンラン石のメルト包有物に対して,地球化学的マルチ分析(主要元素,微量元素,揮発性元素,同位体比など,可能な限りの多元素・多同位体の分析)を行い,元素・同位体の相関性を検討したので,ここに予察的な結果を発表する.
[分析に用いた試料と分析手法・手順]
分析に用いたのは,南太平洋のクック・オーストラル諸島のラロトンガ島(東西に約12 km,南北に約7 km)の前期火山活動(2.3~1.6 Ma)で噴出した玄武岩のカンラン石メルト包有物である.マグマが噴出した際に試料が急冷されなかったために,メルト包有物から5~15重量%程度のカンラン石がオーバーグロースし,娘鉱物(主に単斜輝石)が晶出している.分析結果を検討する際には,こういった効果により,メルト包有物の化学組成が著しく変化していることに留意した.
分析においては,まず二次イオン質量分析計 (SIMS) を用いて5つのメルト包有物のガラス質の部分の揮発性元素,および鉛同位体比を分析した.次に電子線プローブマイクロアナライザー (EPMA) を用いてガラス質の部分の主要元素を分析した.最後にレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析計 (LA-ICP-MS) を用いてメルト包有物の微量元素及び鉛同位体比を分析した.
[分析結果]
今回,SIMS, EPMA, LA-ICP-MSを用いて,揮発性元素,主要元素,微量元素,鉛同位体比などの全てのデータセットを揃えることができたのは,2つのメルト包有物 (rtg13-mi2とrtg41-mi1) である.CO2濃度とH2O濃度の関係を用いて,メルト包有物rtg13-mi2の飽和圧力は約10 MPa以上,メルト包有物rtg41-mi1の飽和圧力は約12 MPa以上であり,地殻浅所まで上昇して脱ガスしたメルトからカンラン石が晶出し,メルトがカンラン石中に包有物として捕獲されたことが分かった.これら2つのメルト包有物に関しては,塩素や水の濃度が海水の混入や脱ガスの影響を大きく受けて変化している可能性を否定できなかった.このため,本研究では,海水の混入や脱ガスの影響を受けにくい揮発性成分であるフッ素と,フッ素と分配係数が近い液相濃集元素ネオディミウムの比(F/Nd)に着目する.F/Nd値に着目することにより,メルト包有物が著しく分化している効果を無視することができる.メルト包有物rtg13-mi2のF/Nd=17,メルト包有物rtg41-mi1のF/Nd=28であり,両者は有意に異なる値を示す(図).
一方,メルト包有物rtg13-mi2のPb同位体比は208Pb/206Pb=2.0888±0.0026,207Pb/206Pb=0.8355±0.0015であったのに対して,メルト包有物のPb同位体比はrtg41-mi1の208Pb/206Pb=2.1078±0.0035,207Pb/206Pb=0.8504±0.0029である.両者は,既報のラロトンガ島の火山岩全岩のPb同位体比のバリエーションの範囲内ではあるが,有意に異なるPb同位体比を示す(図).
[議論]
2つのメルト包有物のF/Nd値が大きく異なっていることは,マントルの溶融の程度の違いや結晶分化作用による効果ではなく,マグマ起源物質のフッ素濃度の違いを反映していると考えられる.放射性起源のPbに富むメルト包有物rtg13-mi2のF/Nd値が低く(17),放射性起源のPbに乏しいメルト包有物rtg41-mi1のF/Nd値が高い(28)ことの一つの説明として,ラロトンガ島のマグマの起源物質には,脱水の程度が異なるスラブがリサイクルしており,それがマグマの揮発性元素濃度や同位体比の不均質性を作っている可能性を挙げることができる.ラロトンガ島の2つのメルト包有物の地球化学的特徴は,Pitcairn島(EM1)に近いものの,Societyに代表されるEM2成分またはMangaia島に代表されるHIMU成分の影響を受けていると解釈できる(図).
これまで,海洋島玄武岩の放射性起源のストロンチウム(Sr), ネオディミウム(Nd), 鉛(Pb)などの同位体比を用いて,ハイミュー(HIMU)やエンリッチ・マントル(EM1, EM2)といったマントル端成分の存在が議論されてきた.従来の火山岩全岩の同位体比の分析に代わって,最近ではメルト包有物を分析することによって,それぞれのマントル端成分に由来するマグマの揮発性成分の量や挙動を明らかにしようとする研究が活発になりつつある.我々は,南太平洋の海洋島であるラロトンガ島のカンラン石のメルト包有物に対して,地球化学的マルチ分析(主要元素,微量元素,揮発性元素,同位体比など,可能な限りの多元素・多同位体の分析)を行い,元素・同位体の相関性を検討したので,ここに予察的な結果を発表する.
[分析に用いた試料と分析手法・手順]
分析に用いたのは,南太平洋のクック・オーストラル諸島のラロトンガ島(東西に約12 km,南北に約7 km)の前期火山活動(2.3~1.6 Ma)で噴出した玄武岩のカンラン石メルト包有物である.マグマが噴出した際に試料が急冷されなかったために,メルト包有物から5~15重量%程度のカンラン石がオーバーグロースし,娘鉱物(主に単斜輝石)が晶出している.分析結果を検討する際には,こういった効果により,メルト包有物の化学組成が著しく変化していることに留意した.
分析においては,まず二次イオン質量分析計 (SIMS) を用いて5つのメルト包有物のガラス質の部分の揮発性元素,および鉛同位体比を分析した.次に電子線プローブマイクロアナライザー (EPMA) を用いてガラス質の部分の主要元素を分析した.最後にレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析計 (LA-ICP-MS) を用いてメルト包有物の微量元素及び鉛同位体比を分析した.
[分析結果]
今回,SIMS, EPMA, LA-ICP-MSを用いて,揮発性元素,主要元素,微量元素,鉛同位体比などの全てのデータセットを揃えることができたのは,2つのメルト包有物 (rtg13-mi2とrtg41-mi1) である.CO2濃度とH2O濃度の関係を用いて,メルト包有物rtg13-mi2の飽和圧力は約10 MPa以上,メルト包有物rtg41-mi1の飽和圧力は約12 MPa以上であり,地殻浅所まで上昇して脱ガスしたメルトからカンラン石が晶出し,メルトがカンラン石中に包有物として捕獲されたことが分かった.これら2つのメルト包有物に関しては,塩素や水の濃度が海水の混入や脱ガスの影響を大きく受けて変化している可能性を否定できなかった.このため,本研究では,海水の混入や脱ガスの影響を受けにくい揮発性成分であるフッ素と,フッ素と分配係数が近い液相濃集元素ネオディミウムの比(F/Nd)に着目する.F/Nd値に着目することにより,メルト包有物が著しく分化している効果を無視することができる.メルト包有物rtg13-mi2のF/Nd=17,メルト包有物rtg41-mi1のF/Nd=28であり,両者は有意に異なる値を示す(図).
一方,メルト包有物rtg13-mi2のPb同位体比は208Pb/206Pb=2.0888±0.0026,207Pb/206Pb=0.8355±0.0015であったのに対して,メルト包有物のPb同位体比はrtg41-mi1の208Pb/206Pb=2.1078±0.0035,207Pb/206Pb=0.8504±0.0029である.両者は,既報のラロトンガ島の火山岩全岩のPb同位体比のバリエーションの範囲内ではあるが,有意に異なるPb同位体比を示す(図).
[議論]
2つのメルト包有物のF/Nd値が大きく異なっていることは,マントルの溶融の程度の違いや結晶分化作用による効果ではなく,マグマ起源物質のフッ素濃度の違いを反映していると考えられる.放射性起源のPbに富むメルト包有物rtg13-mi2のF/Nd値が低く(17),放射性起源のPbに乏しいメルト包有物rtg41-mi1のF/Nd値が高い(28)ことの一つの説明として,ラロトンガ島のマグマの起源物質には,脱水の程度が異なるスラブがリサイクルしており,それがマグマの揮発性元素濃度や同位体比の不均質性を作っている可能性を挙げることができる.ラロトンガ島の2つのメルト包有物の地球化学的特徴は,Pitcairn島(EM1)に近いものの,Societyに代表されるEM2成分またはMangaia島に代表されるHIMU成分の影響を受けていると解釈できる(図).