15:30 〜 16:45
[SCG56-P04] 奈良県吉野郡天川村産レインボーガーネットの透過型電子顕微鏡観察・分析
スカルン鉱床中に見られるグランダイト系列ガーネットは、アンドラダイト(Ca3Fe3+2(SiO4)3)とグロシュラー(Ca3Al2(SiO4)3)を端成分とする連続固溶体であり、3価の鉄とアルミニウムが連続的に置換している。そのなかでアンドラダイト端成分に近く、イリデッセンスを表わすものはレインボーガーネットと呼ばれている。通常のガーネットは光学的に等方体であるが、レインボーガーネットは光学異常を持ち、対称性が低下していることが示唆されている(下林ほか、2005)。先行研究(下林ほか、2005)では、結晶面{110}に平行な数100nm周期の微細なラメラ構造(fine lamellae)が存在し、そのfine lamellaeはアルミニウムと鉄の組成比の異なる二相から成り、その二相の屈折率の違いによって起こる多層膜干渉がイリデッセンスの原因であるとしている。このfine lamellae 以外にも、成長面に平行な成長バンド(zoning lamellae)、斜交した周期10μm~20μmの波状ラメラ(wavy lamellae)の存在を報告している。しかし、レインボーガーネットの光学異常を引き起こす対称性の低下などについてはいまだに不明な点が多く残っている。そこで本研究では、先行研究と同じ奈良県吉野郡天川村で産出したレインボーガーネットについて、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、詳細な結晶内部の微細組織の観察および分析を行った。
本研究では、奈良県吉野郡天川村産の{110}に囲まれた菱形十二面体レインボーガーネット単結晶を用いた。中心を通り(001)に平行な厚さ100 μm程度の薄片を作製し、光学顕微鏡およびSEM(JEOL 7001F, JXA-8105)を用いて、観察・分析を行った。その結果、先行研究同様に、結晶外形に平行な成長バンド(zoning lamellae)、成長面に平行な周期数100nmのfine lamellae、斜交する波状ラメラ(wavy lamellae(周期10μm~20μm))が存在することが分かった。このwavy lamellaeを分析したところ、アルミニウムに富む細いラメラとアルミニウムに乏しい太いラメラがあることがわかった。wavy lamellae中に、成長面{110}に対し平行なfine lamellaeが観察された。このfine lamellaeもアルミニウムに富む細いラメラとアルミニウムに乏しい太いラメラがある。fine lamellaeがwavy lamellaeを横切っていること、さらに、両者が交差する領域ではwavy lamellaeのアルミニウムに富む部分でアルミニウムに富むfine lamellaeの幅が太くなっていることが観察されたことから、fine lamellaeはwavy lamellaeより後で生成した可能性が高いことが示唆される。
さらに、集束イオンビーム(FEI Quanta 200 3DS)を用いてセクター(110)に成長面に対して垂直なTEM試料を作製し、EDS検出器付きTEM(JEOL JEM-2100F)を用いて、観察・分析を行った。今回用いたTEM試料の中央部には成長面{110}に対し平行なアルミニウムに富む明瞭な成長バンド (約3μm)が存在する。その領域ではfine lamellaeは明瞭でなく、電子線回折像では通常のガーネット空間群Ia-3dを破るextra反射は出現しなかった。一方、そのアルミニウムに富む成長バンドの両側の領域ではfine lamellaeが明瞭に観察され、電子線回折像では、通常のガーネット空間群Ia-3dを破るextra反射110, 200, 411 が確認された。このことは、aおよびd映進面が失われたことを意味している。また、110反射を用いた暗視野像観察により、アルミニウムに富む細いラメラのみ明るく観察された。よって、対称性低下を起こしているのがアルミニウムに富む細いラメラであり、その空間群は、立方晶系を仮定した場合、格子タイプをI格子として、I23, Im3, I213, I43m, I432, Im3mの可能性がある。また、光学異常をもつことから、さらに低い対称性をもつと考えられる。
参考文献
下林 典正、三宅 亮、大滝 祥生、瀬戸 雄介、北村 雅夫、鶴田 憲次
(2005):「奈良県天川村産レインボーガーネットの微細組織」、
日本鉱物学会,日本岩石鉱物鉱床学会学術講演会(松山)講演要旨集,P80.
本研究では、奈良県吉野郡天川村産の{110}に囲まれた菱形十二面体レインボーガーネット単結晶を用いた。中心を通り(001)に平行な厚さ100 μm程度の薄片を作製し、光学顕微鏡およびSEM(JEOL 7001F, JXA-8105)を用いて、観察・分析を行った。その結果、先行研究同様に、結晶外形に平行な成長バンド(zoning lamellae)、成長面に平行な周期数100nmのfine lamellae、斜交する波状ラメラ(wavy lamellae(周期10μm~20μm))が存在することが分かった。このwavy lamellaeを分析したところ、アルミニウムに富む細いラメラとアルミニウムに乏しい太いラメラがあることがわかった。wavy lamellae中に、成長面{110}に対し平行なfine lamellaeが観察された。このfine lamellaeもアルミニウムに富む細いラメラとアルミニウムに乏しい太いラメラがある。fine lamellaeがwavy lamellaeを横切っていること、さらに、両者が交差する領域ではwavy lamellaeのアルミニウムに富む部分でアルミニウムに富むfine lamellaeの幅が太くなっていることが観察されたことから、fine lamellaeはwavy lamellaeより後で生成した可能性が高いことが示唆される。
さらに、集束イオンビーム(FEI Quanta 200 3DS)を用いてセクター(110)に成長面に対して垂直なTEM試料を作製し、EDS検出器付きTEM(JEOL JEM-2100F)を用いて、観察・分析を行った。今回用いたTEM試料の中央部には成長面{110}に対し平行なアルミニウムに富む明瞭な成長バンド (約3μm)が存在する。その領域ではfine lamellaeは明瞭でなく、電子線回折像では通常のガーネット空間群Ia-3dを破るextra反射は出現しなかった。一方、そのアルミニウムに富む成長バンドの両側の領域ではfine lamellaeが明瞭に観察され、電子線回折像では、通常のガーネット空間群Ia-3dを破るextra反射110, 200, 411 が確認された。このことは、aおよびd映進面が失われたことを意味している。また、110反射を用いた暗視野像観察により、アルミニウムに富む細いラメラのみ明るく観察された。よって、対称性低下を起こしているのがアルミニウムに富む細いラメラであり、その空間群は、立方晶系を仮定した場合、格子タイプをI格子として、I23, Im3, I213, I43m, I432, Im3mの可能性がある。また、光学異常をもつことから、さらに低い対称性をもつと考えられる。
参考文献
下林 典正、三宅 亮、大滝 祥生、瀬戸 雄介、北村 雅夫、鶴田 憲次
(2005):「奈良県天川村産レインボーガーネットの微細組織」、
日本鉱物学会,日本岩石鉱物鉱床学会学術講演会(松山)講演要旨集,P80.