日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG56] 岩石・鉱物・資源

2016年5月26日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)、三宅 亮(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地質学鉱物学教室)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)、齊藤 哲(愛媛大学大学院理工学研究科)

15:30 〜 16:45

[SCG56-P07] 沖縄トラフ伊是名海穴海底熱水系における硫黄システマティクス:安定同位体,鉱物学,酸化還元平衡論的アプローチ

*川角 彰吾1千葉 仁1石橋 純一郎2 (1.岡山大学大学院自然科学研究科、2.九州大学理学研究院地球惑星科学部門)

キーワード:伊是名海穴海底熱水系、沖縄トラフ、硫黄同位体、酸化還元条件、鉱物組合せ

海底熱水系の硫黄ソースを明らかにすることは,海底熱水鉱床の成因を議論するうえで重要である.しかしながら,半遠洋性堆積物に覆われた沖縄トラフ海底熱水系の硫黄ソースについては議論が乏しい.これは熱水―堆積物相互作用により系が複雑化されているため,堆積物のない熱水系と比べて議論が困難であるからである.中部沖縄トラフ(27°15’N, 127°04’E, 水深~1500m)に位置する伊是名海穴には,薄く堆積物に覆われたJADEサイトと,厚い堆積層を有するHAKUREIサイトとよばれる二つの活発な熱水活動域が存在し,両サイトを比較することで熱水―堆積物相互作用の影響を評価できるといわれている(Kawagucci et al., 2010; Ishibashi et al., 2014).本研究では,JADEとHAKUREIサイトで採取された熱水性沈殿物の鉱物組合せと鉱物化学組成および硫黄・酸素同位体組成を比較することで,伊是名海穴における硫黄ソースと硫黄同位体体系の解明を試みた.
JADEサイトの高温熱水チムニーは,Fe-poor閃亜鉛鉱(<2.2 FeS mol%),砒四面銅鉱,方鉛鉱,黄鉄鉱,黄銅鉱からなる黒鉱型硫化物組合せをもつ.対して,HAKUREIサイトの熱水チムニーは,自形の磁硫鉄鉱,Fe-rich閃亜鉛鉱(23.5~50.8 FeS mol%),方鉛鉱,黄銅鉱ラメラを伴うアイソキューバナイト,少量の黄鉄鉱,Sb-Pb-rich磁硫鉄鉱と重晶石,硬石膏で構成され,その鉱物学的特徴は近接するJADEサイトよりも,堆積物に覆われたGuaymas BasinやMiddle Valleyで報告されているものに近い.
300°C程度の海底熱水ならば,適切な熱力学データ用いることで,溶存H2, H2S濃度から熱水自体のfO2-fS2条件を計算でき,それをFe-Cu-S系のfO2-fS2ダイアグラムにプロットすれば,鉱物学的に推定された酸還元条件と比較できる.熱水化学組成から計算した酸化還元条件は,熱水チムニーの鉱物組合せと閃亜鉛鉱のFe含有量から推定した酸化還元条件とよく一致する.どちらの推定も,JADEサイトが堆積物に乏しくマグマ性揮発成分の寄与が指摘されているPACMANUSと同程度の高いfO2-fS2条件を示すのに対して,HAKUREIサイトはGuaymas BasinやMiddle Valleyと同程度の低いfO2-fS2条件を示す.このことから,HAKUREIサイトの熱水環境は堆積物中の有機物分解により比較的還元的であり,一方,JADEサイトの薄い堆積層は熱水環境の酸化還元条件に影響を及ぼしていないことが示された.
HAKUREIサイトの熱水チムニー硫化物のδ34Sは1.8~4.2‰(2.7±0.6‰, n=19)であり,JADEサイト(5.1~6.7‰)より有意に低い.これは,重晶石と硬石膏のδ18Oが熱水噴出温度(326ºC)における海水SO42--熱水H2O間の酸素同位体平衡が成立していないことから,より同位体交換反応速度の遅い海水SO42--熱水H2S硫黄同位体平衡によるものではない.また,JADEサイトの硫化物の比較的高いδ34Sと高いfS2条件(高いH2S濃度: ~13.6mM)を生み出す硫黄ソースとしては,硫黄濃度の低い島弧火山岩は不十分であり,別のソースの存在が示唆される.
複数の島弧・背弧海盆海底熱水系では,マグマから脱ガスしたSO2の寄与によるδ34Sと熱水pHの異常が指摘されているが,伊是名海穴では多量のマグマ起源CO2の寄与があるにも関わらず,SO2の異常がみられない.島弧マグマから脱ガスする硫黄化学種存在度とその硫黄同位体比を,SO2-H2S間の化学平衡(SO2 + 3H2 = H2S + 2H2O)とHematite-Magnetite酸化還元バッファーを仮定して計算すると,硫黄化学種の平衡温度が約400ºC以下ならば,脱ガスしたSO2の大部分がH2Sへ変換され,島弧マグマの高いδ34S(~5‰)を反映したH2Sが生成されることが示唆された.またHAKUREIサイト硫化物の低いδ34Sは,堆積層中の硫酸還元細菌由来H2Sの寄与によるものか,あるいは,脱ガスした硫黄化学種の平衡温度がJADEサイトより高いことによるSO2の割合の増加に伴うδ34Sの低いH2Sの寄与による可能性がある.