日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG57] 流体と沈み込み帯のダイナミクス

2016年5月24日(火) 15:30 〜 17:00 A08 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*片山 郁夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、川本 竜彦(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、中島 淳一(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)、座長:森重 学(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、大柳 良介(東北大学大学院環境科学研究科)

15:30 〜 15:45

[SCG57-07] 北海道東部下における海洋性地殻の地震波速度と地震活動

*椎名 高裕1中島 淳一2松澤 暢1豊国 源知1北 佐枝子3 (1.東北大学大学院理学研究科地震・噴火予知研究観測センター、2.東京工業大学理工学研究科、3.広島大学理学研究科)

キーワード:海洋性地殻、地震波速度、ガイド波、上面地震帯

沈み込む海洋プレート(スラブ)とともに地球内部へ運び込まれる水は,沈み込み帯における地震・火成活動と密接に関係していると考えられている(e.g., Kirby et al., 1996; Nakajma et al., 2013).特に,スラブ最上部に存在する海洋性地殻は多量の水を含水鉱物として含み,これらの含水鉱物の脱水を伴う相転移の進行が地震波速度の変化や流体の分布に影響していると考えられている(e.g., Hacker et al., 2003).したがって,海洋性地殻の詳細な不均質構造を明らかにすることは,スラブ内地震の発生メカニズムや沈み込み帯における水循環過程を理解する上で非常に重要である.
日高山脈西部の観測点で観測された北海道東部下の太平洋スラブ内地震の観測波形記録にはしばしば顕著な後続波が観測されることが知られている(e.g., 清水・前田, 1980; Abers, 2005).特に,スラブ上部境界付近で発生する地震に対して観測される後続波は海洋性地殻内部を伝播したガイド波であると解釈されている(Shiina et al., 2014).ガイド波が観測されるためには日高山脈下にスラブ直上まで分布する低速度域(Kita et al., 2010, 2012)の存在が重要であり,同一の観測点で観測されたガイド波は,観測点近傍で同じような伝播経路を持つと考えられる.
そこで,本解析では北海道東部下のスラブ内地震で観測されるガイド波の走時差を用いて海洋性地殻の地震波速度の推定を試みた.解析では海洋性地殻内部をP波として伝播したガイド波 (guided-P波)とS波として伝播したガイド波 (guided-S波)の2つの後続相に注目し,guided-P波は315個,guided-S波は275個の地震で到着時刻を読み取った.その結果,深さ50-100 km程度のP波速度は6.5-7.5 km/s,S波速度は3.6-4.2 km/s,Vp/Vsは1.80程度の値が推定された.特に,深さ80 km以浅のP波・S波速度は岩石学的に期待される地殻の地震波速度(e.g., Hacker et al., 2003)よりも遅く,この速度低下は1 vol%程度の流体の存在により説明することができる.また,深さ80-100 kmでは地震波速度の増加が観測された.この深さ範囲は上面地震帯の分布(Kita et al. , 2006)や含水鉱物の脱水(e.g., Hacker et al., 2003)が生じる深さに対応しており,地殻内の地震活動には脱水により生じた水が密接に関係していることが示唆している.
本解析で推定された海洋性地殻のP波速度は,深さ80km以浅では東北地方の結果(Shiina et al., 2013)と同程度であり,それよりも深部(80-100 km程度)では北海道東部のP波速度の方が速い.太平洋スラブが斜めに沈み込む北海道東部では,東北地方に比べてスラブ上部境界付近の温度が高いと考えられている(e.g., Kita et al., 2010; Abers et al., 2013; Wada et al., 2015).北海道東部では地殻周辺部での温度が高いことで含水鉱物の脱水反応の進行や流体の移動経路が東北地方とは異なる可能性がある.このような違いにより,北海道東部下の深さ80-100 km付近では東北地方下に比べて速いP波速度が観測されるのかもしれない.