17:15 〜 18:30
[SCG57-P03] 地震波走時トモグラフィから推定された紀伊半島下のスラブ起源流体の特徴(2)
キーワード:トモグラフィ、スラブ起源流体、紀伊半島
1. はじめに
我々は、紀伊半島下に沈み込むフィリピン海プレートから放出されたスラブ起源流体の挙動や性質を調べるために、以下に述べるような地震観測、レシーバ関数解析、地震波走時トモグラフィ解析を行ってきた。紀伊半島下のスラブ形状と地震波速度構造を推定し、低速度異常域の分布から流体の挙動を議論した。深部低周波イベントや和歌山県北部の活発な微小地震活動と流体の関係が理解されつつある。
2. これまでの結果
我々は,紀伊半島において2004年から2013年までリニアアレイ地震観測を行った。約5km間隔で線状に配置した地震計で記録された遠地地震のレシーバ関数解析によりS波速度不連続面のイメージングを行った。フィリピン海スラブ傾斜方向の4測線とこれらにほぼ直交する2測線について作成したレシーバ関数イメージから大陸モホ面、スラブ上面および海洋モホ面を読み取り、それらの3次元的形状を推定した。この解析で得られた新たな知見は、大陸モホ面が沈み込むフィリピン海スラブの上をせり上がるように南東方向に傾き上がっていることである。
本研究のトモグラフィ解析ではFMTOMO(Rawlinson et al., 2006)を改良したプログラムを用いた。波線追跡と理論走時の計算には波面法に基づくrobustな手法(de Kool et al., 2006)が使われている。速度構造モデルに,レシーバ関数解析により推定した大陸モホ面,スラブ上面および海洋モホ面の3次元的形状を組み込んだ。さらに,定常観測点に加えて,アレイを構成する臨時観測点の読み取り値も使用した。臨時観測点の稠密な配置により,高い分解能が得られた。2010年途中までの74か月間の読み取りデータの解析から、(1)スラブ上面の深さ30~40 kmあたりの深部低周波イベント(DLFE)発生域とその周辺でP波速度(Vp)とS波速度(Vs)はともに-5 %程度の低速度異常を示すこと、(2)和歌山県北部の、上部地殻に微小地震が多発する領域の下の下部地殻にVpとVsともに-10 %にも及ぶ非常に強い低速度異常域がやや東西に広がる形で存在すること、がわかった。
3. 新たな試み
2010年以降のデータに対して、未読み取り期間については業者委託による自動読み取りを行い、33か月間のデータを追加した。この結果、トモグラフィ解析で使用できる地震数と走時数が2倍弱となった。この更新されたデータを用いてトモグラフィ解析を行った。その結果は、上述の(1)と(2)と同様の特徴を示した。深さ22 kmから34 kmにおいてチェッカーボードテストに改善が見られた。(1)は海洋地殻内の含水鉱物の脱水分解が進み、流体が放出されたためと考えられる。(2)は、和歌山県北部の下部地殻に存在する流体が浅部の脆性領域に上昇し、岩石中の間隙水圧を上げ、摩擦力を下げるため、この地域で微小地震が多発すると考えられる。和歌山県北部の下部地殻の低速度域でのVp/Vs比は1.6程度と低く、この領域の流体はシリカに富んでいるのかもしれない。DLFE発生域の低速度域でのVp/Vs比についても再検討する必要がある。今後、Ramachandran and Hyndman(2012, Solid Earth)等を参考にして、Vp/Vs比を推定する手法を工夫する。
防災科学技術研究所,気象庁,東京大学地震研究所,名古屋大学,京都大学防災研究所の定常観測点の波形データを利用した。
我々は、紀伊半島下に沈み込むフィリピン海プレートから放出されたスラブ起源流体の挙動や性質を調べるために、以下に述べるような地震観測、レシーバ関数解析、地震波走時トモグラフィ解析を行ってきた。紀伊半島下のスラブ形状と地震波速度構造を推定し、低速度異常域の分布から流体の挙動を議論した。深部低周波イベントや和歌山県北部の活発な微小地震活動と流体の関係が理解されつつある。
2. これまでの結果
我々は,紀伊半島において2004年から2013年までリニアアレイ地震観測を行った。約5km間隔で線状に配置した地震計で記録された遠地地震のレシーバ関数解析によりS波速度不連続面のイメージングを行った。フィリピン海スラブ傾斜方向の4測線とこれらにほぼ直交する2測線について作成したレシーバ関数イメージから大陸モホ面、スラブ上面および海洋モホ面を読み取り、それらの3次元的形状を推定した。この解析で得られた新たな知見は、大陸モホ面が沈み込むフィリピン海スラブの上をせり上がるように南東方向に傾き上がっていることである。
本研究のトモグラフィ解析ではFMTOMO(Rawlinson et al., 2006)を改良したプログラムを用いた。波線追跡と理論走時の計算には波面法に基づくrobustな手法(de Kool et al., 2006)が使われている。速度構造モデルに,レシーバ関数解析により推定した大陸モホ面,スラブ上面および海洋モホ面の3次元的形状を組み込んだ。さらに,定常観測点に加えて,アレイを構成する臨時観測点の読み取り値も使用した。臨時観測点の稠密な配置により,高い分解能が得られた。2010年途中までの74か月間の読み取りデータの解析から、(1)スラブ上面の深さ30~40 kmあたりの深部低周波イベント(DLFE)発生域とその周辺でP波速度(Vp)とS波速度(Vs)はともに-5 %程度の低速度異常を示すこと、(2)和歌山県北部の、上部地殻に微小地震が多発する領域の下の下部地殻にVpとVsともに-10 %にも及ぶ非常に強い低速度異常域がやや東西に広がる形で存在すること、がわかった。
3. 新たな試み
2010年以降のデータに対して、未読み取り期間については業者委託による自動読み取りを行い、33か月間のデータを追加した。この結果、トモグラフィ解析で使用できる地震数と走時数が2倍弱となった。この更新されたデータを用いてトモグラフィ解析を行った。その結果は、上述の(1)と(2)と同様の特徴を示した。深さ22 kmから34 kmにおいてチェッカーボードテストに改善が見られた。(1)は海洋地殻内の含水鉱物の脱水分解が進み、流体が放出されたためと考えられる。(2)は、和歌山県北部の下部地殻に存在する流体が浅部の脆性領域に上昇し、岩石中の間隙水圧を上げ、摩擦力を下げるため、この地域で微小地震が多発すると考えられる。和歌山県北部の下部地殻の低速度域でのVp/Vs比は1.6程度と低く、この領域の流体はシリカに富んでいるのかもしれない。DLFE発生域の低速度域でのVp/Vs比についても再検討する必要がある。今後、Ramachandran and Hyndman(2012, Solid Earth)等を参考にして、Vp/Vs比を推定する手法を工夫する。
防災科学技術研究所,気象庁,東京大学地震研究所,名古屋大学,京都大学防災研究所の定常観測点の波形データを利用した。