日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG57] 流体と沈み込み帯のダイナミクス

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*片山 郁夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、川本 竜彦(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、中島 淳一(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)

17:15 〜 18:30

[SCG57-P11] 流体ーメルト間の元素分配予測の試み:bond valence法の応用

*神崎 正美1 (1.岡山大学地球物質科学研究センター)

キーワード:ボンドバレンス法、元素分配、流体、メルト、局所構造

元素分配については、小沼、松井らによるアラユルニウム計画により、結晶中のイオン席の局所構造が分配を主に制御していることが分かった(Matsui et al., Bull. Soc. fr. Mineral. Crystallogr., 1977)。そのエッセンスを持つ長沢モデルやその派生モデルを使って、元素分配の「測定後」予測がよく行なわれている。これらのモデルでは、メルトやフルイドは直接的に取り扱われていない。これはメルトやフルイドの局所構造や物性がよく分かっていないためである。そのため、例えばフルイドーメルト間の元素分配を予測することはできない。最近、著者はbond valence法が分配の理解に利用できるのではないかと思いつき、結晶相で試してみたところ、定性的によい結果を得た。それをフルイドーメルト系に応用することを試みており、その結果について報告する。
bond valence(bv)法とは、イオン結晶中において、陽イオンの価数を、それに配位している陰イオンとの結合に対して配分するもので(逆も可)、元はPaulingのbond strengthに由来する。その後、I.D. Brownらが発展させたbv法では原子間距離が定量的に考慮されている(原子間距離が長いとbvは小さくなる)。bvの計算式の1つはexp((R0-rij)/B)の形を取り、rijは原子間距離、R0, Bは元素固有のbvパラメータである。結晶では、中心原子についてbvの和(bvsum)を取ると、中心原子のvalenceとほぼ一致する。大きくずれる場合は構造に何らかの問題がある。結晶学では得られた構造のチェック、多価原子の価数の決定、OHやF席の同定などに広く使われている。結晶構造データベースを使って、特定の陰イオン(主に酸素)に対して、各陽イオンのbvパラメーターがほとんどの元素について決められている。したがって、結晶構造が分かっていれば、そのデータを使って、たとえばforsteriteのM2席に仮想的にSrを入れた場合のbvsumを計算することができる。そのような大きすぎるイオンを入れた時のbvsumは、Mgの価数2からは大きくずれる。このずれは「歪み」エネルギーと捉えることもできる。なぜなら、bvの計算式は2対間ポテンシャルの反発エネルギー部分と相似となるためである。そこで、misfit = abs(bvsum - Q)と定義する(Qは中心イオンの形式valence)。異なる席間のmisfit差をとると、これをその席間の分配係数と対応させられることが分かった。この方法でforsteriteのM1/M2, opxのM1/M2の結晶内「分配係数」, garnet/chloriteなどの結晶間「分配係数」を色々な元素について計算すると、実験データと相似のパターンが得られた。この計算は非常に単純で表計算ソフトで扱える。必要なのは各席における中心原子ー酸素間距離とbvパラメータのみであるので、perovskite/postperovskiteの分配なども予想できる。bv法が元素分配の定性的な予測やその理解に使えることが分かったが、misfit差と分配係数をどう定量的に対応させるか、価数の異なる時の定量的取り扱いなどがまだ未解決で残っている。
さて、フルイドとメルトの局所構造が分かっていれば、上記の方法でフルイドーメルト間分配の定性的な予測ができる。しかし、残念ながらそれがまずよく分かっていない。そこで、フルイドとメルトそれぞれについて仮想的な席を1つ考えて(配位数8程度)、それらの席の大きさ(原子間距離)を変えて、分配の変化を見てみた。Pearceら(doi:10.1029/2004GC000895)によれば、フルイドーメルト間ではBa, Cs, K, Pb, Srがフルイド側へ、REE, Nb, Ta, Zr, Hfなどはメルト側へ強く濃集するとされている。そのようなパターンは、フルイド側の席が3.2 Aくらいの大きさ、メルト側が2.5 Aくらいの場合に得られた。かなり単純化されているが、このような局所構造モデルを使えば、他の元素の振る舞いを予測することができるだろう(この場合は大きなイオンのみ)。配位数および大きさにより、分配パターンは局所構造で大きく変わるので、正確な分配係数が多くの元素で実測されれば、逆にフルイドとメルトの局所構造を制約するために使えるかもしれない。今後、第一原理計算などでさらに検証する必要があろう。