日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG57] 流体と沈み込み帯のダイナミクス

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*片山 郁夫(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、川本 竜彦(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、中島 淳一(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)

17:15 〜 18:30

[SCG57-P12] ラマン分光法による非破壊炭素同位体比分析は使い物になるのか?

*高畑 幸平1鳥本 淳司2山本 順司3 (1.北海道大学大学院理学院自然史科学専攻地球惑星システム科学講座、2.国立研究開発法人海洋研究開発機構、3.北海道大学総合博物館)

キーワード:二酸化炭素、流体包有物、ラマン分光法、マントル捕獲岩、炭素同位体比

炭素は地球上に存在する揮発性元素の一つであり,地球史を通して地球表層の環境に多大なる影響を与えてきた.中でも,炭素–酸素化合物である二酸化炭素は温室効果を持ち,我々の生産活動によって排出される二酸化炭素が現代の急激な地球温暖化をもたらしていると考えられている.二酸化炭素は地球深部物質であるマントル捕獲岩中にも流体包有物として観察される.地球史を通して地球深部から放出されてきた炭素量を積算した場合,現在の地球表層に存在する炭素量に匹敵するほどの二酸化炭素が放出されてきたとする研究もある為,マントル捕獲岩を用いた地球深部炭素の起源や炭素循環を理解することは,地球環境問題のより深い議論にとって重要である.
現在のマントル捕獲岩の炭素同位体比分析にはサンプルの破壊が伴う,測定の空間分解能の低さという点で問題がある.これらの問題を解決できる可能性がある新たな測定手法として,ラマン分光法による炭素同位体比測定がある.しかし,この手法はマントル捕獲岩中の炭素の起源を定量的に議論出来るだけの精度をまだ持っていない.本研究では,先行研究よりも高波数分解能を持つラマン分光器を用いて,炭素の起源を定量的に議論出来る精度±5‰を目指す.また,得られた結果を基に誤差の要因について考察をし,今後の精度向上の展望について議論していく.
測定の結果,炭素同位体比分析の精度は1500秒で±26‰であることが明らかになった.このような悪い精度になってしまった原因として,本研究で用いたラマン分光分析装置の感度の悪さが挙げられる.先行研究で用いられたラマン分光分析装置よりも本研究で用いた装置は約1/26倍の感度であった為,S / Nを十分に稼ぐことが出来ず,ピークフィッティングを正確に行えなかった.そこで,より多くのカウント数を取得した場合に,どれだけ測定精度が向上するか推定を試みた.その結果,今回の測定での測定精度は最高で±11‰(1 σ)であると推定できた.しかし,マントル捕獲岩の起源を定量的に議論するには未だ誤差が大きい.
この誤差の要因を精査した結果,室温変動による見かけのラマンシフトを考慮していなかったことが要因であることが明らかとなった.この要因を除去した結果,測定精度は1500 sec.で±17‰で補正前より±9‰向上した.また,室温の変動による影響を考慮すれば,時間は掛かるもののマントル捕獲岩中の二酸化炭素流体包有物の起源を議論出来る,誤差±5‰の測定を行えることが明らかになった.