16:00 〜 16:15
[SCG58-15] 融点直下から部分溶融に至るまでの多結晶体の非弾性の温度依存性:メカニズムの解明と地震学への応用を目指して
キーワード:非弾性、地震波速度と減衰、部分溶融
地震波トモグラフィーによって観測される地震波構造から地球内部の温度やメルト量などを定量的に見積もるためには、温度・メルト量・粒径などのパラメータが岩石の非弾性に及ぼす影響を理解する必要がある。しかし、高温高圧下での岩石の非弾性実験は難しく、パラメータを系統的に変えて取得した非弾性データは少ない。データの不足を補い多結晶体に共通する非弾性メカニズムを解明する目的で、我々は岩石のアナログ試料(ボルネオール)を用いて、岩石による実験よりも広い周波数範囲で強制振動実験を行ない弾性定数と減衰を測定してきた。
多結晶体の減衰スペクトルは一般に、周波数に対して単調に変化する”バックグラウンド”と、高周波数側に存在する幅の広い”ピーク”の足し合わせで表現される。低周波数側ではバックグラウンドが卓越するが、これはほとんどの非弾性実験で観察されている。そして、それらはマクスウェル周波数fM (= MU/eta; MUは非緩和弾性定数、etaは拡散クリープの粘性)によるスケーリング則に従うことから、バックグラウンドでは物質の拡散に律速される粒界滑りが支配的なメカニズムであるといえる。一方で、ピークのスケーリング則やメカニズムは未解明である。地震波帯域ではピークが卓越するため、その解明が必要である。
我々は、ピークの挙動と部分溶融との関係に注目する。岩石による非弾性実験では、メルトを含む条件下で大きなピークが得られている。また、最近のアナログ試料を使った実験では、融点より低い温度でも、融点に近い温度ほど、ピークの振幅と幅が大きくなることが報告されている[Takei et al., 2014]。Takei et al. [2014]の結果は、メルトが存在しなくても融点直下では地震波の減衰が増大し速度が低下する可能性を示唆していて重要であるが、彼らのデータは融点より低温(T/Tm =< 0.93; Tmは融点)のものであるため、部分溶融がピークに与える影響を直接的に明らかにしてはいない。上部マントルの地震波構造を理解するためには、融点の直上と直下の両方で非弾性の測定を行ない、メルトの有無が非弾性に与える影響を調べることが重要である。
本研究では、アナログ試料を用いて広周波数範囲(2*10-4 Hz =< f =< 100 Hz)の強制振動実験を行ない、非弾性の温度依存性を融点の直下から直上まで(0.88 =< T/Tm =< 1.01)詳しく調べた。同じ温度範囲で超音波実験とクリープ実験を行なって、非緩和弾性定数と拡散クリープの粘性を測定し、fMを計算した。また、部分溶融試料の超音波速度から、波の周波数より高周波の帯域(f > 700 kHz)に存在する非弾性緩和の強度を求めた。得られた結果は以下のようにまとめることができる。(1)バックグラウンドの持つ非弾性緩和の総量は実験条件に依らず一定であるのに対して、ピークの総量はソリダスに近づくにつれて増大し、単純なマクスウェルスケーリング則には従わないことがわかった。(2)この増大がソリダス以下の温度から生じていることから、ピークはメルトの有無には関係しない固体状態の何らかのメカニズムにより生じていることが分かった。このことは、melt squirt flowがピークより十分高い超音波帯域に存在するという、超音波測定の結果とも調和的である。(3)部分溶融を経験しメルトのネットワークができた試料では、融点より低い温度でも、融点以上と同様の大きなピークを保つというヒステリシスが見られた。これは、高速拡散パスの存在がピークの増大に深く関わっていることを示唆する。これらの結果はピークのメカニズム解明の糸口となると期待される。地震学への応用として、温度によるピークの増大が地震波の速度と減衰に与える影響についても議論する。
多結晶体の減衰スペクトルは一般に、周波数に対して単調に変化する”バックグラウンド”と、高周波数側に存在する幅の広い”ピーク”の足し合わせで表現される。低周波数側ではバックグラウンドが卓越するが、これはほとんどの非弾性実験で観察されている。そして、それらはマクスウェル周波数fM (= MU/eta; MUは非緩和弾性定数、etaは拡散クリープの粘性)によるスケーリング則に従うことから、バックグラウンドでは物質の拡散に律速される粒界滑りが支配的なメカニズムであるといえる。一方で、ピークのスケーリング則やメカニズムは未解明である。地震波帯域ではピークが卓越するため、その解明が必要である。
我々は、ピークの挙動と部分溶融との関係に注目する。岩石による非弾性実験では、メルトを含む条件下で大きなピークが得られている。また、最近のアナログ試料を使った実験では、融点より低い温度でも、融点に近い温度ほど、ピークの振幅と幅が大きくなることが報告されている[Takei et al., 2014]。Takei et al. [2014]の結果は、メルトが存在しなくても融点直下では地震波の減衰が増大し速度が低下する可能性を示唆していて重要であるが、彼らのデータは融点より低温(T/Tm =< 0.93; Tmは融点)のものであるため、部分溶融がピークに与える影響を直接的に明らかにしてはいない。上部マントルの地震波構造を理解するためには、融点の直上と直下の両方で非弾性の測定を行ない、メルトの有無が非弾性に与える影響を調べることが重要である。
本研究では、アナログ試料を用いて広周波数範囲(2*10-4 Hz =< f =< 100 Hz)の強制振動実験を行ない、非弾性の温度依存性を融点の直下から直上まで(0.88 =< T/Tm =< 1.01)詳しく調べた。同じ温度範囲で超音波実験とクリープ実験を行なって、非緩和弾性定数と拡散クリープの粘性を測定し、fMを計算した。また、部分溶融試料の超音波速度から、波の周波数より高周波の帯域(f > 700 kHz)に存在する非弾性緩和の強度を求めた。得られた結果は以下のようにまとめることができる。(1)バックグラウンドの持つ非弾性緩和の総量は実験条件に依らず一定であるのに対して、ピークの総量はソリダスに近づくにつれて増大し、単純なマクスウェルスケーリング則には従わないことがわかった。(2)この増大がソリダス以下の温度から生じていることから、ピークはメルトの有無には関係しない固体状態の何らかのメカニズムにより生じていることが分かった。このことは、melt squirt flowがピークより十分高い超音波帯域に存在するという、超音波測定の結果とも調和的である。(3)部分溶融を経験しメルトのネットワークができた試料では、融点より低い温度でも、融点以上と同様の大きなピークを保つというヒステリシスが見られた。これは、高速拡散パスの存在がピークの増大に深く関わっていることを示唆する。これらの結果はピークのメカニズム解明の糸口となると期待される。地震学への応用として、温度によるピークの増大が地震波の速度と減衰に与える影響についても議論する。