日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG58] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2016年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 303 (3F)

コンビーナ:*大内 智博(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、清水 以知子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、石橋 秀巳(静岡大学理学部地球科学専攻)、座長:清水 以知子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、大内 智博

16:15 〜 16:30

[SCG58-16] 転位が岩石非弾性に与える影響:アナログ物質を用いた実験的研究

*佐々木 勇人1武井 康子1マッカーシー クリスティーン2鈴木 彩子1 (1.東京大学地震研究所、2.コロンビア大学ラモント・ドアティ地質研究所)

キーワード:非弾性、転位、地震波減衰、アナログ実験、多結晶体、欠陥

地震波トモグラフィなどの観測から地球内部の状態を推定するには,地震波の速度分散と減衰を引き起こす岩石非弾性のメカニズムを理解することが必要となる.地球内部における非弾性の主なメカニズムとしては,多結晶体中での粒界すべりと転位の移動によるものの2つが提案されている.粒界すべりについては理論的・実験的研究[1–4]が最近盛んになされている.一方で,転位と非弾性との関係についての実験的研究[5, 6]はごくわずかであり,しかも粒界すべりの影響と区別することも難しい.本研究の目標は,多結晶体の非弾性が転位の有無によりどのように変化するかを実験的に調べ,転位が非弾性に与える影響を定量的に評価することである.岩石のアナログ物質としてボルネオール(C10H18O,融点Tm = 204°C)有機多結晶体を実験試料に用いて[3],広周波数帯域(102–10-4 Hz)での非弾性を高精度で測定した.
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はじめに,アナログ多結晶体試料に対して1軸圧縮のクリープ実験を行ない,差応力Δσ を 0.27–2.3 MPaの範囲で系統的に変えて各差応力での定常歪速度を測定し,流動則を求めた.大気圧下では,差応力Δσ が 1 MPa以下では拡散クリープが生じるが,更に高差応力下では粒界に割れが生じてしまった.そこで,土質力学の分野で用いられている,低摩擦の1軸載荷機構を有する最大封圧 1 MPaの3軸圧力セル(佐藤剛司氏による設計)を導入し,封圧Pc = 0.8 MPaにおいて,融点規格化温度T/Tm = 0.66(T = 40°C)および 0.68(T = 50°C)でクリープ実験を行なった.その結果,Δσ <.0.90 MPaでは応力指数が n ~ 1 の線形クリープ(粒界拡散クリープ[3]),Δσ >.2.0 MPaでは n ~ 5 のベキ乗則クリープが支配的となる流動則をT/Tm = 0.68 で得て,T/Tm = 0.66 では遷移応力が更に高応力側であった.ベキ乗則クリープ領域で約30%の歪を与えた試料の微細構造には,粒界の屈曲や非一様な粒径分布が観察された.これらは転位が関与した粒界移動によるものと見られ,転位クリープによって多結晶体中に転位が導入されたと考えられる.
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上記で得られた流動則に基づき,同一の試料を,拡散クリープ,中間的なクリープ,転位クリープが支配的となる3つの差応力(0.27, 1.4, 2.1 MPa)で順に変形し,それぞれの変形の終了直後から,強制振動実験装置[3]を用いて,試料の非弾性と(拡散クリープ領域での)粘性を繰り返し測定した.Pc = 0.8 MPa,T/Tm = 0.68 での各予変形後,差応力下で室温まで冷却した試料を強制振動実験装置に取り付け,大気圧下,T/Tm = 0.59–0.66(10–40°C)の範囲で温度を変えて非弾性測定を行なった:微小振幅(~ 0.04 MPa)の1軸圧縮応力を周波数f = 102–10-4 Hzで正弦的に加え,各周波数f でのヤング率E(f)と減衰Q -1(f)を測定した.粘性は,同時に加えている一定のオフセット応力(Δσ = 0.27 MPa)に対する変形から測定した.実験の結果は以下のようにまとめられる.(1)拡散クリープ下での変形(歪Δε = 0.7%)後は,同じ条件での先行研究[3]と非常に調和的なヤング率とQ -1スペクトルを得た.(2)中間的なクリープおよび転位クリープ下での変形(Δε = 3.6%, 12%)後は,ヤング率の低下と減衰Q -1の増大が有意にとらえられ,その変化量は予変形での差応力が高いほど大きかった.(3)更に,時間の経過とともにヤング率とQ -1は回復し,最終的には拡散クリープ後に得られたヤング率とQ -1スペクトルに収束した.これらの結果から,転位による非弾性への影響がとらえられたと考えている.
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[1] Morris and Jackson, 2009, J. Mech. Phys. Solids
[2] Jackson et al., 2014, PEPI
[3] Takei et al., 2014, JGR
[4] Gribb and Cooper, 1998, JGR
[5] Guéguen et al., 1989, PEPI
[6] Farla et al., 2012, Science