日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG59] 海洋底地球科学

2016年5月25日(水) 13:45 〜 15:15 301B (3F)

コンビーナ:*沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、石塚 治(産業技術総合研究所活断層火山研究部門)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、高橋 成実(海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発センター)、座長:山本 揚二朗(海洋研究開発機構)、山下 幹也(海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター)

14:30 〜 14:45

[SCG59-04] 南西諸島海溝における海底地殻変動観測

川島 廉1、*田所 敬一2中村 衛3松廣 健二郎4松本 剛3小野 朋典3 (1.名古屋大学理学部(現・静岡県庁)、2.名古屋大学地震火山研究センター、3.琉球大学理学部、4.名古屋大学全学技術センター)

キーワード:南西諸島海溝、海底地殻変動、プレート間カップリング

南西諸島海溝沿いでは、地震発生の特性が十分に解明されていないため、地震調査研究推進本部による海溝型地震の長期評価が行われていない。また、1771年八重山津波は石垣島南方沖での海溝型地震によるとの指摘もあり[Nakamura, 2009]、南西諸島海溝沿いにおけるプレート間の固着状態を把握する必要がある。プレート間の固着状態の把握には地殻変動データが有用であるが、沖縄トラフでの背弧拡大の影響による琉球弧の海溝側へのせり出し(固着に伴う変位とはほぼ逆方向の変位)もあり、陸上(島嶼部)に設置された1列のGPS観測網のみで南西諸島海溝沿いにおけるプレート間の固着状態を把握することは困難である。そこで、Nakamura [2011] では、沖縄本島南東沖の南西諸島海溝近傍に設置したRKA観測点でのGNSS/音響結合方式による海底地殻変動観測結果から、カップリング率がほぼ100%、幅約50kmの固着域が存在することが報告されている。しかし、1ヵ所での観測であったため、固着域の長さを限定することはできなかった。本研究では、RKA観測点に隣接した海域でのプレート間の固着状態を明らかにするため、RKA観測点の北東約70kmの海底にRKB観測点を設置してGNSS/音響結合方式による海底地殻変動観測を実施した。
RKB観測点は、2011年11月に南西諸島海溝軸から53km、水深約2200mの海底に設置した。観測は2011年11月、2012年11月、2014年9月、2015年9月の計4回にわたって、沖縄県水産海洋技術センターの調査船「図南丸」(176トン)を借用して実施した。観測期間はいずれも一日半程度であった。海底局位置決定に使用した音響測距データ数は、各エポックで8257個,8992個,7286個,6424個であり、調査船に設置したGPSアンテナの座標は0.2秒でサンプリングしたGPSデータを用いてPPP解析によって求めた。このほか、観測船の姿勢は0.5 秒間隔で収録したジャイロコンパス(OCTANSIII)によって計測し、平均的な海中音速構造のプロファイルを求めるためにCTD測定を行った。
海底局位置決定の結果、RKB観測点はアムールプレート上のGEONET上対馬基準点に対して、南北成分が−6±22 mm/yr、東西成分が2±26 mm/yrで移動していることが明らかになった。この結果は、Nakamura[2011]によるRKA観測点での観測結果(南北成分:35±23 mm/yr、東西成分:−30±19 mm/yr)と有意に異なり、両観測点直下でのプレート間の固着状態が明らかに異なることを反映していると考えられる。
琉球弧の変位速度場は、沖縄トラフでの背弧拡大、スロースリップイベント(SSE)、そしてプレート間固着による変位速度によって記述される。RKB観測点における変位速度の観測値から、Nishimura et al.[2004]による琉球弧の剛体ブロック運動モデルから計算した背弧拡大による寄与分と、Nishimura[2014]に報告されている観測期間中に発生したSSEによる寄与分(年間あたり)を差し引くことによってプレート間の固着による変位速度を求めたところ、アムールプレートに対して北北西方向に24±25 mm/yrであった。RKB観測点と沖縄本島でのプレート間の固着による変位速度(ほぼ0mm/yr)をともに満たすRKB直下のプレート間カップリング率をフォワードモデリングによって求めると、約0〜20 %程度となった。この小さいカップリング率は、RKA観測点付近と比べてRKB観測点付近ではSSEや逆断層型の超低周波地震[Tu et al., 2010]、逆断層型地震等のひずみ解放イベントの発生数が多いことと調和的である。したがって、RKB直下ではプレートの沈み込みに伴うひずみが上盤側プレートに蓄積している可能性は低いと考えられる。南西諸島海溝沿いのさらに広範囲の固着状態を把握するために、2016年にRKA観測点の南西約90kmの地点に新たな海底局を設置する予定である。
謝辞:本研究の一部は、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施されました。