14:45 〜 15:00
[SCG59-05] 1771年八重山津波“波源域”における海底地殻変動の観測
-巨大プレート境界型地震は準備されているか?-
キーワード:八重山津波、GPS/音響結合方式、海底地殻変動
本発表では、2014年から2015年、八重山諸島、波照間島の南60km沖にて海底地殻変動を観測した結果を報告する。
波照間島の南方100kmにある琉球海溝では、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に8cm/yrで沈み込んでいる。琉球海溝の沈み込みは南西諸島の背後、沖縄トラフにおいて背弧拡大を引き起こしており(4-5cm/yr)、海溝軸での収束速度は約12cm/yrと見込まれている。プレート間の固着は弱く、大きなプレート境界地震は発生しないと考えられてきた(Scholz and Campos 2012).しかし,1771年4月24日、地震動を伴う巨大な津波が西琉球海溝沿いの石垣島,宮古島を始め周辺の島々を襲ったことが知られている(Nakata and Kawana 1995; Nakamura 2009a; Goto et al. 2010など)。この津波の最大遡上高は石垣島南東部で観測された約30mである。津波による死亡率は石垣島が最も高く、津波前の人口の約3分の1が死亡したとされる。一方で地震による深刻な被害は発生していない。震度に基づくマグニチュードMk=7.5は津波に基づくマグニチュードMt=8.5よりもかなり小さく、八重山地震が地震動と比較して不釣り合いに大きな津波を発生させる津波地震であることを示唆している。また、石垣島や周辺の島々では、1771年の大津波やそれ以前の古津波によって運ばれてきたと思われる巨大な津波石が多数発見されている。この事実もプレート境界地震のように特定の再来周期を持った事象の発生を示唆している。
Nakamura(2009b)は、1771八重山津波の原因を、琉球海溝西部で発生したプレート境界地震としてモデル化した。本研究では、想定震源域上で海底の地殻変動を計測し、プレートの固着状態を推定することとした。2014年10月に波照間島の60km南方、波照間海盆の南端(外縁隆起帯の内側)に海底局を設置し、設置時と、2015年7月の2回、海底局の位置を決定し、移動速度を見積もった。その結果、海底局は波照間島のGEONET点(国土地理院:コード960751)に対して南東に12±8cm/yrの速度で移動し、海溝に向かってせり出しているという結果となった。2度のみの計測であるため結果には大きな不確定性があるものの、結果を正しいとして解釈すれば、この場所の直下のプレート境界には固着が無く、更に海溝軸の高速な後退によって八重山諸島が南方に引っ張り出されていると考えられる。
ベクトルの精度を向上させるため、引き続き数年間の観測が必要である。また本サイトは八重山津波の想定波源域の西端にあたるため、東側の海域に観測を広げることで、本研究地域での前弧海盆の形成や背弧拡大のメカニズム、巨大プレート境界地震の有無の全貌解明に近づきたい。
Goto, K., Kawana, T. and Imamura, F., 2010, Earth-Science Reviews., 102, 77-99
Nakamura, M. 2009a, Geophysical Research Letter., 36, L19307
Nakamura, M. 2009b, Geophysical Research Letter, 36, L20312,
Nakata, T. and Kawana, T., 1995, In: Tsuchiya, Y. and Shuto, N. (Eds.), Tsunami: Progress in Prediction, Disaster Prevention and Warning, Kluwer Academic Publishers, Netherlands
Scholz, H. C. and Campos, J., 2012, Journal of Geophysical Research, 107
波照間島の南方100kmにある琉球海溝では、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に8cm/yrで沈み込んでいる。琉球海溝の沈み込みは南西諸島の背後、沖縄トラフにおいて背弧拡大を引き起こしており(4-5cm/yr)、海溝軸での収束速度は約12cm/yrと見込まれている。プレート間の固着は弱く、大きなプレート境界地震は発生しないと考えられてきた(Scholz and Campos 2012).しかし,1771年4月24日、地震動を伴う巨大な津波が西琉球海溝沿いの石垣島,宮古島を始め周辺の島々を襲ったことが知られている(Nakata and Kawana 1995; Nakamura 2009a; Goto et al. 2010など)。この津波の最大遡上高は石垣島南東部で観測された約30mである。津波による死亡率は石垣島が最も高く、津波前の人口の約3分の1が死亡したとされる。一方で地震による深刻な被害は発生していない。震度に基づくマグニチュードMk=7.5は津波に基づくマグニチュードMt=8.5よりもかなり小さく、八重山地震が地震動と比較して不釣り合いに大きな津波を発生させる津波地震であることを示唆している。また、石垣島や周辺の島々では、1771年の大津波やそれ以前の古津波によって運ばれてきたと思われる巨大な津波石が多数発見されている。この事実もプレート境界地震のように特定の再来周期を持った事象の発生を示唆している。
Nakamura(2009b)は、1771八重山津波の原因を、琉球海溝西部で発生したプレート境界地震としてモデル化した。本研究では、想定震源域上で海底の地殻変動を計測し、プレートの固着状態を推定することとした。2014年10月に波照間島の60km南方、波照間海盆の南端(外縁隆起帯の内側)に海底局を設置し、設置時と、2015年7月の2回、海底局の位置を決定し、移動速度を見積もった。その結果、海底局は波照間島のGEONET点(国土地理院:コード960751)に対して南東に12±8cm/yrの速度で移動し、海溝に向かってせり出しているという結果となった。2度のみの計測であるため結果には大きな不確定性があるものの、結果を正しいとして解釈すれば、この場所の直下のプレート境界には固着が無く、更に海溝軸の高速な後退によって八重山諸島が南方に引っ張り出されていると考えられる。
ベクトルの精度を向上させるため、引き続き数年間の観測が必要である。また本サイトは八重山津波の想定波源域の西端にあたるため、東側の海域に観測を広げることで、本研究地域での前弧海盆の形成や背弧拡大のメカニズム、巨大プレート境界地震の有無の全貌解明に近づきたい。
Goto, K., Kawana, T. and Imamura, F., 2010, Earth-Science Reviews., 102, 77-99
Nakamura, M. 2009a, Geophysical Research Letter., 36, L19307
Nakamura, M. 2009b, Geophysical Research Letter, 36, L20312,
Nakata, T. and Kawana, T., 1995, In: Tsuchiya, Y. and Shuto, N. (Eds.), Tsunami: Progress in Prediction, Disaster Prevention and Warning, Kluwer Academic Publishers, Netherlands
Scholz, H. C. and Campos, J., 2012, Journal of Geophysical Research, 107