日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG59] 海洋底地球科学

2016年5月26日(木) 09:15 〜 10:30 301B (3F)

コンビーナ:*沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、石塚 治(産業技術総合研究所活断層火山研究部門)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、高橋 成実(海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発センター)、座長:芦 寿一郎(東京大学大学院新領域創成科学研究科/大気海洋研究所)、平松 孝晋(アジア航測株式会社)

09:30 〜 09:45

[SCG59-14] 南部マリアナ海溝で発見された巨大海底地滑り:6K-1429潜航調査速報

*石井 輝秋1小原 泰彦2,3大家 翔馬4マルチネス フェルナンド5 (1.公益財団法人 深田地質研究所、2.海上保安庁、3.海洋研究開発機構、4.静岡大学、5.ハワイ大学)

キーワード:南部マリアナ海溝、海底地滑り、蛇紋岩化したマントルかんらん岩

しんかい湧水域(Shinkai Seep Field)を含む南部マリアナ海溝陸側斜面の生物学・地質学的調査を目的として、2015年初夏に「しんかい6500」による潜航調査を主とする「よこすか」YK15-11航海が実施された。本講演では、南部マリアナ海溝西部のカロリン海嶺に相対する陸側斜面に発達する小海嶺において発見された、巨大海底地滑り地形の6K-1429潜航調査(乗船者:石井輝秋)の結果を速報する。
同海底地滑り地形は、前年度のYK14-13航海において、「よこすか」のマルチビーム測深機EM122でマッピングされた。カロリン海嶺のフィリピン海プレートへの衝突により、南部マリアナ海溝西部は水深が浅く幅が極端に狭い海溝の形状を示している。南部マリアナ海溝西部の東西に延びる海溝陸側斜面は単傾斜ではなく、海溝のすぐ陸側(北側)には最浅部の水深約2300 m、全長約100 kmの小海嶺が東西に伸長し、その更に陸側(北側)に最深部の水深約5750 m、全長約70 kmの東西に伸長する小海盆が存在する。小海盆の更に陸側(北側)は、西マリアナ海嶺の第三紀火山から形成されていると思われる浅所へと続いている。EM122による海底地形図からは、小海嶺の水深2300 mの山頂北側直下、水深2700 m付近を上端、水深4500 m付近を下端とし、東西約5 km弱、南北約6 km強の楕円形の凹地形が読み取れる。その下流部の水深4500 mから5650 mにかけて、北北西方向に扇状地状に広がる5 km強の幅を持つ凸地形が確認できる。EM122の海底音響反射強度によると、凹地形域はほぼ円形の均質な黒色域を呈し、反射強度が大きな岩石が全域に渡り露出していることを示唆している。凸地形域は周囲より黒色部の分布密度が高く、東側の境界は明瞭であるが、西側の境界は不明瞭で、地形分布とは一致しないようである。以上のことから、凹地形域は、北側に傾斜する斜面上で、最大深度600 mにも及ぶ深層崩壊が発生し、内部の構成岩石が岩盤状に露出した崩壊地域であり、凸地形域は、深層崩壊により発生した岩屑流が扇状地状に広がり堆積した標高300 m程度の崩壊堆積物マウンドであると考えられる。海底地形図と地形断面図から、崩落し堆積した岩屑量はおよそ5 km³-10 km³程度と見積もられ、小規模な津波が発生した可能性も示唆される。
6K-1429潜航は、小海盆の南端から小海嶺の北側斜面を調査し、上部(浅部)の凹地形(大崩壊地形)及び下部(深部)の凸地形(崩壊堆積物マウンド)の観察を行った。その結果、複数のマントルかんらん岩と、一つの玄武岩が採取された。マントルかんらん岩は、小海嶺の基盤であると考えられ、火山岩は、南部マリアナ前弧に広く分布している中新世の火山岩であると考えられる。
マントルかんらん岩を産する小海嶺の水深が浅い理由は、小笠原前弧域の水深約1000 mの母島海山(Ishii, 1985, Terra Pub)と類似の成因によると考えられる。すなわち、母島海山の場合は沈み込む太平洋プレート上の小笠原海台の衝突により陸側が下から押し上げられているためと考えられる。一方、カロリン海嶺の中軸には東西に軸をもち南北に拡大中のソロルトラフ(Altis, 1999, Tectonophysics)があり、この拡大によるカロリン海嶺の北方への衝突により、陸側が下から押し上げられ、前弧マントルがスリバーとして露出していると考えられる。深層崩壊の要因としては、下からの押し上げによる斜面の傾斜角の増加に加え、浸透水の流入、大量の蛇紋石泥による潤滑剤効果により滑り易くなっていることなど、複数の要因の相乗効果が考えられる。この海域の調査は、ヤップ海溝付近の岩石学的な記載など(例えば、Ohara et al, 2002, Chemical Geology)を含めても非常に少なく、今後の調査が待たれる。