日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG59] 海洋底地球科学

2016年5月26日(木) 09:15 〜 10:30 301B (3F)

コンビーナ:*沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、石塚 治(産業技術総合研究所活断層火山研究部門)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、高橋 成実(海洋研究開発機構地震津波海域観測研究開発センター)、座長:芦 寿一郎(東京大学大学院新領域創成科学研究科/大気海洋研究所)、平松 孝晋(アジア航測株式会社)

09:45 〜 10:00

[SCG59-15] ターミナル海盆における泥質タービダイトの堆積構造の理解

*奥津 なつみ1芦 寿一郎1大村 亜希子1山口 飛鳥1菅沼 悠介2村山 雅史3 (1.東京大学大気海洋研究所、2.国立極地研究所、3.高知大学海洋コア総合研究センター)

キーワード:混濁流、帯磁率異方性、X線CT、イベント性堆積物

沈み込み帯における地震履歴の解明は、将来の地震・津波に伴う災害を軽減するうえで非常に重要である。陸域や海域の堆積物記録の分析からは、古文書や遺跡の調査に比べ、より古い地震履歴を得ることができる。特に、海域の堆積物は海溝型巨大地震の発生域に位置するため、古地震の高精度な位置情報を含むと言える。海域の堆積物を用いた地震履歴の推定には、タービダイトの分布と年代が一般的に用いられている。ただし、混濁流は洪水などによっても発生するため、タービダイトを用いた地震履歴の解明には、陸からの直接的な土砂供給のない地点で試料の採取を行うなど注意を要する。陸からの直接的な土砂供給のない地点で採取されたタービダイトは非常に細粒であるため、半遠洋性泥との判別が困難である。そこで本研究では、先行研究により地震性であることが明らかである泥質タービダイトに着目し、その堆積構造の特徴を理解することを第一の目的とした。また、形態および定量的データより求められた堆積構造の特徴を、同地点で得られたピストンコア試料に適用し、その試料における地震性タービダイトの分布に関する考察を試みた。
本研究では学術研究船「新青丸」KS-14-8航海において,紀伊半島南東沖の小海盆より採取された長さ46cmのマルチプルコアと長さ6.7 mのピストンコアを用いた。試料採取地点は、熊野沖の付加プリズムと前弧海盆の間に位置し、陸からの土砂供給を受けない、東北東-西南西方向に伸びた小海盆である。小海盆は流入した土砂が再び流れ出すことのないターミナル海盆でもある。採取されたマルチプルコアのセシウム137と過剰鉛-210濃度の分析から、上部17 cmの泥質層は2004年紀伊半島南東沖地震の際に堆積したものと報告されている。分析は両方のコアに対し、肉眼観察やX線CTスキャンに加え、帯磁率異方性、岩石磁気、古地磁気、電気比抵抗、粒度分析を行った。
2004年紀伊半島南東沖地震時に溜まった泥質タービダイトは、シルト質の葉理部と、それを覆う無構造の厚い泥層からなる。シルト質の葉理部では粒度に大きな変化は認められないが、帯磁率は上方への減少がみられ上位のシルト層で最も低い値を示す。これらの結果から、葉理部は地震動によって発生した低密度の堆積物重力流によって形成されたと考えられる。また、この一連のタービダイトの直下の堆積層は、もともとの葉理が現在の海底面に対して著しく斜交する複雑な形状を示しており、地震時、おそらく2004年の地震による震動変形を示す。古流向解析の結果は、ターミナル海盆を囲む斜面の方向と良い対応を示す。
ピストンコア試料には、マルチプルコア試料と類似の堆積構造を確認した。火山灰の同定や有孔虫による年代決定の結果、個々のタービダイト層の間隔が南海トラフにおいてこれまでに知られている地震の発生間隔と概ね一致することが分かった。本研究の対象海域であるターミナル海盆では、紀伊半島沖における地震イベントの全てを記録している可能性があげられる。今後、各層の年代を決定し、地震の発生時期の解明を目指す。