日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG60] 地殻流体と地殻変動

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*小泉 尚嗣(滋賀県立大学環境科学部)、梅田 浩司(国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、松本 則夫(産業技術総合研究所地質調査総合センター地震地下水研究グループ)、田中 秀実(東京大学大学院理学系研究科)、風早 康平(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、角森 史昭(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)

17:15 〜 18:30

[SCG60-P07] 弾性波アクロスによるS波走時変化観測から推定される地下坑道閉鎖後の地下水とクラックの挙動

*國友 孝洋1,2山岡 耕春1石井 紘2浅井 康広2渡辺 俊樹3 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.(公財)地震予知総合研究振興会 東濃地震科学研究所、3.東京大学地震研究所)

キーワード:弾性波アクロス、東濃鉱山、再冠水、地震波速度変化

<はじめに> 弾性波アクロス土岐送信所(岐阜県土岐市 東濃鉱山)では、2002年10月から13年間以上にわたる連続送信が継続されている。東濃鉱山(日本原子力研究開発機構)では、2012年3月から地下坑道(本延坑道はGL-125m)の充填作業が開始され、2014年12月9日に排水ポンプを停止、2015年3月には坑道の閉鎖が完了した。本研究では、弾性波アクロス信号の観測により得られた、地下坑道閉鎖後の再冠水に伴うS波の顕著な走時変化について報告する。さらに、S波速度変化は、堆積岩層(瑞浪層群、厚さ約90m)の下にある土岐花崗岩内で生じていると結論できること、また、充填坑道内およびその周辺の地下水流動により、花崗岩内のクラックの開閉およびS波速度変化がコントロールされていることを議論する。
<実験概要> アクロス信号の観測には、送信点のほぼ直下の観測点(98SE-01号孔。GL-203m)に設置されている加速度計で行った。本研究に用いた弾性波アクロスは水平加振で、直下ではP波が明瞭には観測されないため、専らS波について議論する。S波のパスは坑道を通過しないが、深度的には送受信点の間に坑道が存在する位置関係である。解析には、同一の記録計による観測データが存在する2009年1月20日から2015年9月までのデータを用いた。アクロス送信装置および送信信号、グリーン関数を計算するまでのデータ処理については、例えば、國友・他(2014)を参照のこと。2時間毎の6成分グリーン関数を計算した後、クロススペクトル法によりS波(SH波およびSV波)の走時変化を推定した。クロススペクトルを計算するための基準グリーン関数には、2009年3月から1年間のスタッキングデータを用いた。
<結果と議論> これまでの直接S波の走時変化は、SV波で±0.4ms程度、SH波で±0.3ms程度の年周変化が最も顕著であり、東北地方太平洋沖地震(M=9.0)の際にも0.4~0.5ms程度の走時遅延があっただけである。坑道の充填が開始された2012年以降も有意な変化は見られなかったが、2014年12月9日に排水ポンプ停止してから数週間後から顕著な走時遅延が始まった。約4か月後には4msに達する桁違いに大きな走時遅延となり、ほぼ安定な状態へと移行した。この走時遅延は、約2.4%のS波速度低下に相当する。
直接SH波の後には、瑞浪層群内での多重反射と考えられるフェーズが確認でき、特に地表と不整合面(瑞浪層群と土岐花崗岩)でそれぞれ2回および4回ずつ反射したと考えられるフェーズが明瞭である。それらは、反射回数にほぼ比例して年周変化および降雨による走時遅延が大きくなっている。一方、排水ポンプ停止後の走時遅延量は、直接波、2回および4回多重反射波でほとんど同じ大きさである。瑞浪層群内での通過距離が異なっても変化が同じであることから、地下坑道への再冠水が原因のS波速度変化は、土岐花崗岩内で生じていると結論できる。
ポンプ停止後、充填後の地下坑道内では地下水位が上昇し、それにほぼ同期する形での歪変化がBH-1号孔(本延坑道から約40m下)で観測されている。主歪はENE-WSW方向への短縮である。S波速度は、大きくみれば地下水位の上昇とともに低下しているが、降雨などの影響による地下水位の短期的な上昇・下降に着目すると、8~9日間程度遅れて低下・上昇の変化をしている。98SE-01号孔での記載によると、花崗岩内ではNE-SWおよびWNW-ESE走向(平均的には、NNW-SSE)の比較的低角のクラックが卓越している。再冠水によりこれらのクラックが開いたと考えれば、クラックの狭間にあるBH-1号孔の短縮方向が説明できる。また、坑道内の地下水位変化に伴う地下水流動が、S波のパス上のヘアクラックの開閉をコントロールしているとすれば、8~9日遅延してS波速度が変化するという現象を説明できそうである。地下坑道とパスの水平距離が25mであるので、地下水の(水平)移動速度は3×10-5m/s程度となる。
<謝辞> 弾性波アクロス土岐送信所の稼働には、国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構の関係者の方々の多大な協力を得ました。また、充填後の地下坑道の水位データを頂きました。合わせて感謝致します。
<参考文献> 國友孝洋・他, 2014, 地震, 67(1), 1-24.