日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG61] K-NET運用開始から20年:強震観測網のこれまでとこれから

2016年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 302 (3F)

コンビーナ:*中原 恒(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座)、久田 嘉章(工学院大学建築学部)、引間 和人(東京電力株式会社)、座長:中原 恒(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座)、引間 和人(東京電力株式会社)

14:45 〜 15:15

[SCG61-03] K-NET強震記録の設計用長周期地震動策定への活用

★招待講演

*佐藤 智美1 (1.(株)大崎総合研究所)

キーワード:K-NET強震記録、長周期地震動、地震動予測式、南海トラフ沿いの巨大地震、位相スペクトル、超高層建物

周期2~10秒程度の長周期地震動は、超高層建物や免震建物の固有周期と同程度であり、これらの建物の設計用長周期地震動策定のため、国土交通省の建築基準整備事業により、2008~2012年度の5年間、建築研究所との共同研究として長周期地震動の検討を行った。国土交通省は、その検討結果を踏まえて検討を進め、2015年12月に「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策案について」に関する意見募集(パブコメ)を行っている。ここでは、主に、パブコメで用いられているK-NET強震記録等を用いた経験的長周期地震動予測に関する技術的、研究的内容について記述する。
はじめに、K-NET、KiK-net、気象庁87型電磁式強震計、気象庁95型震度計、工学院大学で観測された多数の記録を用いて、長周期地震動を含む周期0.1~10秒の加速度応答スペクトルと位相スペクトルの地震動予測式(経験式)を作成した。用いたデータは、6.5≦MJ≦8.2、震源深さ<60kmの51海溝型地震の震源距離<400kmの約10000の地震-観測点ペア、6.0≦MJ≦7.3の26地殻内地震の震源距離<350kmの約6000の地震-観測点ペアである。応答スペクトルの予測式は、Mw2項とMw項を考慮し、断層最短距離をパラメータとした式であり、震源近傍での飽和の効果が考慮されている。位相スペクトルは、微分である群遅延時間の狭帯域での平均値と分散で表現され、これらの予測式は、M0と震源距離をパラメータとした式となっている。本研究で提案した位相スペクトルに関する予測式は、これまでにない新しいものであり、これにより時刻歴波形が経験的に計算できるようになった。いずれも式も、関東平野ではフィリピン海プレートの地震の方が経験的サイト係数が大きい傾向があったため、両プレートからの地震に対して、異なる経験的サイト係数を推定している。これは、関東平野の3次元地下構造の影響を経験的に取り込んだともいえる。
予測式では10~20km間隔程度の強震観測点で経験的サイト係数が算出されているため、3大都市圏では任意の建設地点でのサイト係数を算出するための回帰式も算出した。1~10秒の経験的サイト係数は、S波の1次元理論地盤増幅率とは異なっていたため、地震基盤から工学的基盤までのS波の固有周期の1/4(Tzと呼ぶ)でモデル化した。そして、経験的サイト係数がTzを用いてバイリニア型で良くモデル化でき、これが、表面波のメディアムレスポンスにより解釈できることを示した。また、地下構造が急変している地域、例えば、神戸、房総半島先端付近などは、直下の地下構造を用いたTzでは十分なモデル化ができないため、Tzの補正を行なって経験的に3次元効果を考慮した。Tzの算出には地震本部の約1kmメッシュの地下構造モデルを用いている。なお、周期0.1~1秒の短周期帯域では、工学的基盤相当の観測点での経験的サイト係数の平均値を全国一律の工学的基盤のサイト係数として用いた。
作成された応答スペクトルと位相スペクトルの予測式を用いると、巨視的断層面とそのM0が与えられれば、1km間隔の任意地点での周期0.1~10秒の波形を作成することができる。巨視的断層面はセグメント毎に設定し、セグメント毎の波形を、破壊時間遅れを考慮して足し合わせることで、連動する巨大地震に対する波形も計算できる。そして、2011年東北地方太平洋沖の地震のK-NET、KiK-netの強震記録のシミュレーションを通して、手法の巨大地震への適用の妥当性を検証した。また、地震本部の長周期地震動予測地図で検討されている東海地震、東南海地震、南海地震に対する差分法による計算結果と平均的に整合することを確認した。
国土交通省の2015年12月のパブコメの中では、内閣府が検討している安政東海地震(Mw8.6)、宝永地震(Mw8.9)の巨視的断層モデルを用いて、この手法により3大都市圏と静岡県で長周期地震動の計算を行い、それを設計用に簡略化して、大阪圏3区分、中京圏3区分、静岡県3区分、関東圏1区分の加速度波形10波のデジタル値を公表している。3区分のスペクトルは、現行の設計用スペクトルである告示スペクトルの極めて稀に発生する地震動のレベルに対して、その区域で卓越する長周期の周期帯域が2倍、1.5倍、1倍となっている。
謝辞:本研究では、K-NET、KiK-net、気象庁87型電磁式強震計、気象庁95型震度計、工学院大学の強震記録、気象庁の震源情報、F-net及びGlobal CMTの地震モーメントを用いました。記して、感謝致します。