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[SCG62-03] 北海道における慶長三陸沖地震(1611年)の火山活動への影響
キーワード:火山噴火、地震、北海道、慶長三陸地震、マグマ溜り
数千年に及ぶ噴火活動休止期の後、南西北海道の3火山(北海道駒ケ岳、有珠山および樽前山)は、西暦1640~1667年にかけてVEI=5の大噴火を起こし、噴火活動期に入った。この3火山の噴火活動の再開については、その約30年前に起こった慶長三陸沖地震(西暦1611年)の影響が指摘されている。特にその震源域については、三陸沖だけではなく北海道十勝~色丹沖まで連動していた可能性が指摘されており、地震による影響が北海道南西部に及んだ可能性は十分に考えられるが、一方で摩周や雌阿寒などの北海道東部の火山は噴火していない。本研究では、まず北海道全域の活火山の完新世の噴火活動履歴をまとめ、特に17世紀前後の噴火活動度の地域差を明らかにする。さらに上記3火山のマグマ供給系の構造と噴火過程をまとめ、北海道における地震と火山活動の関係について検討する。 北海道は東北日本弧と千島弧の2つの島弧の会合部であり、火山活動は更新世を通じて活発である。そして完新世では、まず1万年前後に比較的大規模な噴火が全域で起こっていた。千島弧に属する北海道東部では1.3万年前の雌阿寒岳(VEI=5)、7000年前の摩周(VEI=6)の大噴火があり、また東北日本弧の南西北海道では1.2万年前の濁川、9000年前の樽前山、そして約7000年前に駒ケ岳がそれぞれVEI=5の大噴火を起こした。東部では知床半島の諸火山、摩周~アトサヌプリ、雄阿寒~雌阿寒1000年前頃までは定期的にマグマ噴火を起こしており、噴火活動は活発であったといえる。一方、道南の火山は樽前山が約2500年前にVEI=5の噴火を起こしているが、その他の活火山ではVEI<3程度の噴火が散発する程度であり、活動度は低い状態が続いていた。会合部である北海道中部では、完新世ではVEI=5に達する噴火はなく、大雪山と十勝岳においてVEIが3以下の噴火が散発している。 そして17世紀になって前述したように、南西北海道では3火山が大噴火を連動したかのように起こし、その後も現在まで噴火活動は継続している。さらに3火山だけではなく、周辺の恵庭岳や恵山などでも活動が活発化した。一方、北海道東部では約1000年前頃の摩周(VEI=5)、雌阿寒岳(VEI=4?)および700年前の羅臼岳(VEI=3)のマグマ噴火を最後に、活動は低調になったようである。特に17世紀以降に限ると、北海道中部の十勝岳で小規模なマグマ噴火が散発する程度で、北海道東部ではマグマ噴火は発生していない。以上の北海道全域での火山噴火活動履歴を考えると、仮に慶長三陸地震のような大地震が北海道の火山活動に影響を与えたとすると、北海道東部の活動を低下させて、逆に南西北海道の諸火山の噴火を誘発させたことになる。つまり17世紀に起こった現象は北海道全域の応力場に影響を与えたと考えるべきであり、これは北海道が2つの島弧会合部にあることと調和的である。 次に17世紀に噴火活動を再開した、南西北海道の3火山のマグマ系について検討する。これまでの研究をまとめると、これらの火山の噴火履歴およびマグマ供給系にはいくつかの共通点が認められる。それは、1)いずれも2000~5000年あるいはそれ以上の長い休止期の後に噴火活動を再開したこと、2)主要に活動したマグマは珪長質で、その全岩化学組成はデイサイト質安山岩~流紋岩質マグマと組成差があるが、それらのメルト組成はいずれも流紋岩質であったこと、3)この珪長質マグマ溜りに噴火の数年前以内の時期にマフィックマグマが貫入して噴火した点、の3点である。このことからこれら3火山では休止期の間に、十分な量のマグマを蓄積していたと考えられる。そのため大地震で噴火を誘発することはあり得るが、例えば大地震によりマフィックマグマの活動が活発になって上昇を開始する、あるいは地殻内の応力場の変化により珪長質マグマが活発になるという可能性は、慶長地震の後に約30年の間隔をおいて、3火山の噴火が始まったことの説明が困難である。