日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG62] 巨大地震と火山活動:火山活性化過程の基礎研究

2016年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 201A (2F)

コンビーナ:*高橋 栄一(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)、中川 光弘(北海道大学大学院理学研究院自然史科学部門地球惑星システム科学講座)、佐竹 健治(東京大学地震研究所)、市原 美恵(東京大学地震研究所)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:浜田 盛久(国立研究開発法人海洋研究開発機構地球内部物質循環研究分野)

14:30 〜 14:45

[SCG62-10] 粘性の観点からのマグマ活動活性化の検討に向けて

*竹内 晋吾1 (1.一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)

キーワード:噴火直前マグマ粘性、メルト粘性スケール、マグマ活動活性化

火山活動の活発化の原因をマグマ活動に求めた場合,重要な支配要因の一つはマグマの粘性である.マグマに内在,あるいは外在する駆動力によって,マグマが運動する際の抵抗としてマグマ粘性は働き,活発化過程のタイムスケールに大きく関わると考えられるからである.本論では,噴出マグマの粘性の推定例や粘性の観点から行われたマグマ活動活性化過程に関する研究をレビューし,今後の研究を考える.
噴出物解析から推定される噴火直前のマグマ溜まり条件でのマグマの粘性(preeruptive magma viscosity)は101から108 Pasに及ぶ広い範囲にわたる(Scaillet et al., 1998, JGR; Takeuchi, 2011, JGR; Andújar and Scaillet, 2012, Lithos).このような推定は,メルト粘性モデル(例えば Giordano et al., 2008, EPSL)と多相マグマの粘性モデル(例えばMarsh, 1981, CMP)を用い,斑晶を含むマグマの粘性として岩石学的データに基づき計算することで可能である.岩石学的に推定されたマグマの粘性は,玄武岩から流紋岩になるにつれ,101から105 Pasと高くなる傾向がある一方,安山岩からデイサイト質マグマの一部で108 Pasまで粘性が高くなる(Takeuchi, 2011, JGR).このような安山岩からデイサイト質マグマは,約50 vol%におよぶ高濃度の斑晶を含む.また,高濃度の斑晶が原因となり,メルト組成が全岩組成よりも珪長質側にずれ,流紋岩組成(約75 wt% SiO2)になっている.これらのことが,高い粘性を持つ理由である.日本のような島弧で普遍的に活動する安山岩からデイサイト質のマグマの粘性の範囲は103から108 Pasの5桁にわたる.この範囲の広さは,マグマ活動の活性化過程を考える上で,重要な観点の一つとなる.
噴火直前のマグマ粘性の観点から検討されたマグマ活性化に関わるモデル研究がいくつかある.注入高温マグマからの加熱による結晶質マグマの再流動化と対流のモデル化(例えばBurgisser and Bergantz, 2011, Nature)から,これらの現象のタイムスケールは結晶質マグマの粘性が高いほど長くなることが示されている.また,噴火初期過程と位置づけられるマグマ溜まりからの岩脈形成の可能性が議論されている(例えばRubin, 1995, JGR).粘性が高いほど,岩脈形成のために必要なマグマ溜まり過剰圧の大きさが大きくなる.
今後は,火山の噴火史と粘性の時代変遷との関係(例えば Gardner et al., 1995, Geology; White et al., 2006, G3),マグマ混合のタイムスケール(例えば Tomiya et al., 2013, BV)と粘性の関係,噴火直前の地球物理学的現象と粘性の関係(例えば Passarelli and Brodsky, 2012)など,粘性の観点からのマグマ活動活性化過程に関する実証的な研究が考えられる.その際,メルト粘性スケール(Takeuchi, 2015, BV)が簡便なマグマ粘性推定に役立つ.