11:00 〜 11:15
[SCG63-08] チリ北部Atacama断層系Bolfin断層南端の流体移動
キーワード:断層、流体、裂か
Atacama断層系(AFS)は,チリ北部の沿岸に沿って1000 km以上にわたって分布する海溝に平行で長大な断層系であり(Cenbrano et al., 2005),Bolfin断層はその北部の一部をなすNNW系でほぼ垂直な断層である。AFSの明瞭な左横ずれは,190 - 110 MaにかけてのAluk(Phoenix)プレートの南東方向の沈み込みに因るものと考えられている(例えば,Schuber and González, 1999)。
本研究の調査地域は,Bolfin断層の南端に位置し,変位が小さいstrike-slipの小断層(裂か)の集合からなるhorsetail型構造を示す(Faulkner et al. 2011)。本調査地域においても,粗粒変閃緑岩中に幅1 - 20 mmのNNW系でほぼ垂直な裂かが発達する。裂かは方解石と石英で充填され,またそれらに沿って母岩の変閃緑岩に緑泥石(プロピライト)化の熱水変質を与えている。当地域ではまた,幅10 cm程度のNW系でほぼ垂直な優白質岩脈が露出する。裂かのいくつかは,20 - 35 mm程度の左横ずれを伴って岩脈を切るが,多くの裂かは岩脈の南西側接触部で消滅している。この岩脈に垂直な1.8 mの範囲内に分布する幅3 mm以上の裂かの本数は,岩脈の南西側で11本であるのに対し,北東側ではわずかに4本である。以上から,これらの裂かは北北西に向けて進展したと推測される。Faulkner et al.(2011)もまた,本地域南方の露頭における裂か周辺のダメージ(変質)帯の幅の非対称性から,プロセスゾーンモデルに基づけば,裂か先端は北西に向けて進展したと推定している。一方で,岩脈の南西側境界の変閃緑岩は著しく熱水変質を受けているが,北東側では変質がほとんど見られない。このことは,流体が裂かを浸透した際に,岩脈が流体のバリアーとなっていたことを示唆している。従って,裂かの進展と同様に,流体の移動方向の側方成分も北北西であった,即ちBolfin断層中軸部に向けて浸透したと考えられる。
裂かの母岩である変閃緑岩は,風化が著しく一部が熱水変質を受けているが,主に斜長石と角閃石から成っていたと思われる。一方で,裂かに流入した熱水による変質帯は,主に方解石,石英,緑簾石および緑泥石から成る。XRF分析と密度分析の結果,この変質により,CaOとSiO2がそれぞれ2.77と4.21 mol/L添加され,Na2O,K2O,Mg2OおよびAl2O3は一部除去されたことが示された。EPMA分析値に基づく緑泥石-石英温度計は,この変質の温度が330℃程度であったことを示している。一方で,裂かを充填する方解石中の流体包有物の均質化温度は280℃程度であり,CaCl2 相当塩濃度は11.3 wt. %である。従って,塩水の等容曲線から,流体の圧は69 MPa程度であったと推定される。
以上のデータを元に,流体が方解石,石英,緑簾石および緑泥石と平衡であり,EPMA分析値により緑簾石をepidote (0.60) - clinozoisite (0.40),緑泥石をdaphnite (0.55) - clinochlore (0.45)の理想固溶体とし,69 MPaで340℃から330℃に温度が低下した場合に,裂かを方解石と石英が充填するために必要な流体量を,MIX99(Hoshino et al., 2000)を用いてシミュレートした。その結果,裂かスペース1Lを充填するために必要な流体量は86 kgであると見積られた。従って,膨大な量の流体が,Bolfin断層中軸部に向けて浸透したと推定される。
本研究の調査地域は,Bolfin断層の南端に位置し,変位が小さいstrike-slipの小断層(裂か)の集合からなるhorsetail型構造を示す(Faulkner et al. 2011)。本調査地域においても,粗粒変閃緑岩中に幅1 - 20 mmのNNW系でほぼ垂直な裂かが発達する。裂かは方解石と石英で充填され,またそれらに沿って母岩の変閃緑岩に緑泥石(プロピライト)化の熱水変質を与えている。当地域ではまた,幅10 cm程度のNW系でほぼ垂直な優白質岩脈が露出する。裂かのいくつかは,20 - 35 mm程度の左横ずれを伴って岩脈を切るが,多くの裂かは岩脈の南西側接触部で消滅している。この岩脈に垂直な1.8 mの範囲内に分布する幅3 mm以上の裂かの本数は,岩脈の南西側で11本であるのに対し,北東側ではわずかに4本である。以上から,これらの裂かは北北西に向けて進展したと推測される。Faulkner et al.(2011)もまた,本地域南方の露頭における裂か周辺のダメージ(変質)帯の幅の非対称性から,プロセスゾーンモデルに基づけば,裂か先端は北西に向けて進展したと推定している。一方で,岩脈の南西側境界の変閃緑岩は著しく熱水変質を受けているが,北東側では変質がほとんど見られない。このことは,流体が裂かを浸透した際に,岩脈が流体のバリアーとなっていたことを示唆している。従って,裂かの進展と同様に,流体の移動方向の側方成分も北北西であった,即ちBolfin断層中軸部に向けて浸透したと考えられる。
裂かの母岩である変閃緑岩は,風化が著しく一部が熱水変質を受けているが,主に斜長石と角閃石から成っていたと思われる。一方で,裂かに流入した熱水による変質帯は,主に方解石,石英,緑簾石および緑泥石から成る。XRF分析と密度分析の結果,この変質により,CaOとSiO2がそれぞれ2.77と4.21 mol/L添加され,Na2O,K2O,Mg2OおよびAl2O3は一部除去されたことが示された。EPMA分析値に基づく緑泥石-石英温度計は,この変質の温度が330℃程度であったことを示している。一方で,裂かを充填する方解石中の流体包有物の均質化温度は280℃程度であり,CaCl2 相当塩濃度は11.3 wt. %である。従って,塩水の等容曲線から,流体の圧は69 MPa程度であったと推定される。
以上のデータを元に,流体が方解石,石英,緑簾石および緑泥石と平衡であり,EPMA分析値により緑簾石をepidote (0.60) - clinozoisite (0.40),緑泥石をdaphnite (0.55) - clinochlore (0.45)の理想固溶体とし,69 MPaで340℃から330℃に温度が低下した場合に,裂かを方解石と石英が充填するために必要な流体量を,MIX99(Hoshino et al., 2000)を用いてシミュレートした。その結果,裂かスペース1Lを充填するために必要な流体量は86 kgであると見積られた。従って,膨大な量の流体が,Bolfin断層中軸部に向けて浸透したと推定される。