15:30 〜 15:45
[SCG63-19] 地殻の部分融解がテクトニクスに及ぼす影響:新潟―神戸歪集中帯を例として
キーワード:地殻の部分融解、テクトニクス、新潟神戸歪集中帯
新潟―神戸歪集中帯(以下NKTZ)は沈み込むプレート境界付近を除けば内陸部で最も顕著な地殻変動帯である(Sagiya, 2000)。NKTZ周辺の中央部から西部にかけて下部地殻に顕著な地震波低速度領域が広がっている(Nakajima & Hasegawa, 2007)。NKTZ中央部には多くの活火山が分布しており、下部地殻の低速度はマグマ溜りの存在や下部地殻が部分融解しているためと解釈されている。しかしながら、NKTZ西部には活火山は存在せず下部地殻の低速度層も中央部に比べると発達が顕著でない。このため、NKTZ西部の下部地殻の低速度帯は部分融解ではなくフィリピン海プレートの脱水に伴って放出された水が岩石中に蓄積されているためと解釈されている(Iio et al., 2002)。本講演では、NKTZ西部の下部地殻にみられる低速度帯も部分融解が原因であるとの新たな解釈について述べる。この解釈が正しいとすると地殻の部分融解が火山活動ばかりでなく地殻変動などテクトニクスにも重要な影響を与えていることになる。
岩石中に少量のシリケイトメルトが分布する状態(部分融解)と水流体が粒界に含まれる状態(含水状態)はいずれもドライの岩石に比べ地震波速度が低下し、比抵抗も大幅に低下するためその区別は容易でない。両者の違いはポアソン比にもっとも敏感に表れ、部分融解ではVp/Vs=1.8以上 含水岩石ではVp/Vs=1.8以下の速度比を示すと考えられている(Watanabe, 1993; Takei, 2002)。NKTZ西部の下部地殻にみられる低速度帯のVp/Vsは1.7程度であり、この値は粒界に含まれる水が原因であるとする従来の解釈と矛盾しない(Nakajima & Hasegawa, 2007)。しかしながら、もし仮にフィリピン海プレートの脱水に伴う水の付加が低速度の原因であるとするなら、低速度帯がMoho付近には見られず、深さ20km付近に限って広がっていることが説明できない。一方、この分布の特徴は以下に述べるように部分融解モデルからは合理的に説明できる。
地殻を構成する様々な岩石のソリダスは実験的に詳しく研究されている。水に飽和した状態のソリダスはドライのソリダスと比較して数100℃低下する。中でも花崗岩のソリダスは下部地殻では水に飽和した場合600℃まで低下する。安山岩、泥質堆積岩では約650℃、玄武岩では650-700℃が水に飽和したソリダスである(Wyllie,1977など)。すなわち、下部地殻の岩石が粒界に水を含む(水に飽和した)状態であるとすれば600-700℃の温度以上では部分融解が必然的に起きる筈である。
Nakajima & Hasegawa(2007)によれば、NKTZ西部の地震発生震度の下限は15km程度でありこの値はNKTZ中部の活火山から離れた地域のそれと一致している。またこの地震発生震度の下限は東北地方のそれと大差ない。地震発生震度の下限は岩石の脆性・塑性転位に対応すると考えられるのでその深さは広域的な地温度勾配に比例する。すなわち、NKTZ中央部および西部の地温勾配は東北地方のそれと大差ないことになる。Takahashi(1978、1986)は岩石学的な手法で東北地方の地温勾配を推定し、Moho面の温度を800℃以上と見積もっている。したがってNKTZ中部の地温勾配は東北地方同様にMoho(深さ30km)で800℃以上と考えられる。しかしながらNKTZ西部の地温勾配はMoho直下に沈み込んだ低温のフィリピン海プレートが存在するため、Moho付近が深さ20km付近よりかえって低温である可能性が高い。すなわち、NKTZ西部の低速度層がMoho付近には見られず深さ20km付近に限られていることは部分融解モデルから合理的に説明できる。
我々の新しい解釈によれば、NKTZの大きな地殻変動は部分融解した下部地殻の高い流動性が担っていることになる。この地域では今まさにミグマタイトが下部地殻で形成されつつあるのだろう。下部地殻の低速度層はNKTZ地域よりも広がっている。本講演で述べたようにそれらが地殻の部分融解に起因するとすれば、地殻の部分融解は火山の分布よりはるかに広がっていることになる。火山はマントルから玄武岩マグマが貫入する高熱流地帯に限って形成されるのであろう。一方、プレートの脱水に伴って水が供給され、地温勾配が比較的高く、下部地殻で600℃を超える場所では部分融解が広く起きているだろう。下部地殻の部分融解モデルは、大阪平野下の低周波地震の存在、和歌山の中央構造線の南部にある顕著な群発地震域の下にあるマグマ溜りの起源などに統一的な説明を与え得る。
岩石中に少量のシリケイトメルトが分布する状態(部分融解)と水流体が粒界に含まれる状態(含水状態)はいずれもドライの岩石に比べ地震波速度が低下し、比抵抗も大幅に低下するためその区別は容易でない。両者の違いはポアソン比にもっとも敏感に表れ、部分融解ではVp/Vs=1.8以上 含水岩石ではVp/Vs=1.8以下の速度比を示すと考えられている(Watanabe, 1993; Takei, 2002)。NKTZ西部の下部地殻にみられる低速度帯のVp/Vsは1.7程度であり、この値は粒界に含まれる水が原因であるとする従来の解釈と矛盾しない(Nakajima & Hasegawa, 2007)。しかしながら、もし仮にフィリピン海プレートの脱水に伴う水の付加が低速度の原因であるとするなら、低速度帯がMoho付近には見られず、深さ20km付近に限って広がっていることが説明できない。一方、この分布の特徴は以下に述べるように部分融解モデルからは合理的に説明できる。
地殻を構成する様々な岩石のソリダスは実験的に詳しく研究されている。水に飽和した状態のソリダスはドライのソリダスと比較して数100℃低下する。中でも花崗岩のソリダスは下部地殻では水に飽和した場合600℃まで低下する。安山岩、泥質堆積岩では約650℃、玄武岩では650-700℃が水に飽和したソリダスである(Wyllie,1977など)。すなわち、下部地殻の岩石が粒界に水を含む(水に飽和した)状態であるとすれば600-700℃の温度以上では部分融解が必然的に起きる筈である。
Nakajima & Hasegawa(2007)によれば、NKTZ西部の地震発生震度の下限は15km程度でありこの値はNKTZ中部の活火山から離れた地域のそれと一致している。またこの地震発生震度の下限は東北地方のそれと大差ない。地震発生震度の下限は岩石の脆性・塑性転位に対応すると考えられるのでその深さは広域的な地温度勾配に比例する。すなわち、NKTZ中央部および西部の地温勾配は東北地方のそれと大差ないことになる。Takahashi(1978、1986)は岩石学的な手法で東北地方の地温勾配を推定し、Moho面の温度を800℃以上と見積もっている。したがってNKTZ中部の地温勾配は東北地方同様にMoho(深さ30km)で800℃以上と考えられる。しかしながらNKTZ西部の地温勾配はMoho直下に沈み込んだ低温のフィリピン海プレートが存在するため、Moho付近が深さ20km付近よりかえって低温である可能性が高い。すなわち、NKTZ西部の低速度層がMoho付近には見られず深さ20km付近に限られていることは部分融解モデルから合理的に説明できる。
我々の新しい解釈によれば、NKTZの大きな地殻変動は部分融解した下部地殻の高い流動性が担っていることになる。この地域では今まさにミグマタイトが下部地殻で形成されつつあるのだろう。下部地殻の低速度層はNKTZ地域よりも広がっている。本講演で述べたようにそれらが地殻の部分融解に起因するとすれば、地殻の部分融解は火山の分布よりはるかに広がっていることになる。火山はマントルから玄武岩マグマが貫入する高熱流地帯に限って形成されるのであろう。一方、プレートの脱水に伴って水が供給され、地温勾配が比較的高く、下部地殻で600℃を超える場所では部分融解が広く起きているだろう。下部地殻の部分融解モデルは、大阪平野下の低周波地震の存在、和歌山の中央構造線の南部にある顕著な群発地震域の下にあるマグマ溜りの起源などに統一的な説明を与え得る。