日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG63] 変動帯ダイナミクス

2016年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 A08 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、重松 紀生(独立行政法人産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、加藤 愛太郎(名古屋大学大学院環境学研究科)、岩森 光(海洋研究開発機構・地球内部物質循環研究分野)、池田 安隆(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、竹下 徹(北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)、座長:西村 卓也(京都大学防災研究所)、小林 健太(新潟大学理学部地質科学科)

16:15 〜 16:30

[SCG63-22] 繰り返し測量で明らかとなったフィリピン断層のクリープ変位速度の空間的多様性

*堤 浩之1Jeffrey Perez2 (1.京都大学大学院理学研究科地球物理学教室、2.フィリピン火山地震研究所)

東アジアには,海洋プレートの斜め沈み込みに起因する典型的な島弧中央横ずれ断層(中央構造線・フィリピン断層・スマトラ断層など)が発達する.プレートの収束境界に発達するこれらの大規模な横ずれ断層は変位速度が大きく,島弧の地形・地質構造の発達や地震活動に大きな影響を及ぼしている.我々はフィリピン断層を対象として,断層のマッピングや活動履歴調査を行ってきた(Tsutsumi and Perez, 2013).その過程で,断層の中部に位置するレイテ島で地表クリープの証拠を見いだし,変形した人工構造物の調査やInSAR解析に基づきクリープ変位速度を算出した(堤ほか,2013).
クリープ変位区間の広がりや速度を明らかにするために,2013年3月から断層を跨ぐ短い基線の繰り返し測量を実施している.2013年3月に1回目の測量を行い,その後2014年3月と11月に改測を行った.また2016年3月に再度計測予定である.現時点で,ルソン島南部に1地点,マスバテ島に5地点,レイテ島に8地点,ミンダナオ島北部に2地点の計16地点に観測基点を設けている.観測の方法は,USGSやサンフランシスコ州立大学の研究チームがサンフランシスコ湾岸地域で行っている観測方法(McFarland et al., 2015)を踏襲している.断層トレースを挟んで,3つの観測基点を設ける.それぞれの基点間の距離は約100mである.これらの基点がなす角度を,測角精度が3秒のトータルステーションを使って計測する.通常の観測条件では,2mm程度の横ずれ変位は十分な精度で検出可能である.観測基線が短いので,断層の極浅部の変位(地表クリープ)のみを捉えることができる.
2013年3月から2014年11月の観測によると,レイテ島の北部や中部の3つの観測地点では,40〜50mmの累積左ずれクリープ変位が計測され,これは23〜29mm/yrのクリープ変位速度に換算される.この値は,人工構造物の変位から求められる過去10〜40年間のクリープ変位速度やマスバテ島でのGPS観測によって明らかとなったフィリピン断層の変位速度(22±2mm/yr; Bacolcol et al., 2005)とほぼ同じである.レイテ島では,過去400年間にフィリピン断層上で地震断層を伴う大地震は発生しておらず(Bautista and Oike, 2000),フィリピン断層の変位は主にクリープ変位で解消されていると考えられる.マスバテ島では,2つの観測地点で5〜10mm/yrの左ずれクリープ変位が観測された.これらの観測地点は,2003年マスバテ地震(Ms 6.2)の際に出現した長さ約18kmの地震断層を横切っている.地震断層の最大変位量は約50cmであった(PHIVOLCS Quick Response Team, 2003).Papiona and Kinugasa(2008)によるトレンチ掘削調査では,マスバテ区間の平均活動間隔は130〜170年と見積もられている.もし2003年地震と同様な地震が繰り返しているならば,マスバテ区間の変位速度は3〜4mm/yrとなり,GPS変位速度に比べて著しく小さい.我々の観測で明らかとなったクリープ変位は,マスバテ区間の変位が中規模地震とクリープ変位の両方によって賄われている可能性を示している.ルソン島やミンダナオ島のフィリピン断層は,歴史時代にM7以上の大地震で破壊し,数mの変位を伴う地震断層を出現させたことが知られている.これらの区間のクリープ変位の有無や速度を明らかにするために,観測基点を2014年11月に設置し,2016年3月に改測予定である.発表当日は,この測量結果も含めて議論する.