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[SCG63-P29] 東北日本弧における(U-Th)/He熱年代マッピング:長期スケールの地殻変動像の解明に向けて
キーワード:東北日本弧、(U-Th)/He熱年代、長期の地殻変動
東北日本弧では,測地学的に観測された短期間の歪みと,地質学的・地形学的に推定された長期間の歪みにおいて,速度や方向が異なるというパラドックスが知られている(例えば,池田,1996,活断層研究)。測地学的に観測される変形には,地震時にキャンセルされる弾性変形と,地形発達に寄与する永久変形(非弾性変形)の両方が含まれるが,両者の分離には,地形・地質学的調査による非弾性変形速度の評価が実践的な手段だと考えられている(池田,2012,地質雑)。筆者らは,100万年以上の長期間における鉛直方向の地殻変動像の解明を目的に,東北日本弧を横断する南北2本の測線において,(U-Th)/He熱年代解析を実施している。北測線は,北上山地~奥羽脊梁山地~太平・白神山地,南測線は,阿武隈山地~奥羽脊梁山地~飯豊・朝日山地を通過しており,試料はいずれも白亜紀~古第三紀初頭の花崗岩類である。2016年1月現在時点では,南北両測線のアパタイト(U-Th)/He年代(AHe年代)と,南測線のジルコン(U-Th)/He年代(ZHe年代)が得られている。AHe年代は,前弧側の北上山地,阿武隈山地では,一様に約50Maより古い年代が得られ,これらの地域が新生代ほぼ全体を通じて比較的安定な環境にあったことが示唆された。対して,奥羽脊梁山地および背弧側(太平・白神山地,飯豊・朝日山地)では,すべての地点で約10Maより若い年代が得られ,奥羽脊梁山地では最も若い年代は約1Maに達した。これらの年代は,約10Ma,約5Ma,約3Ma以降の3つのグループに分類することができたが,これらの時期は後背地解析から推定されている東北日本弧の山地の隆起ステージ(例えば,Nakajima et al., 2006, PPP;守屋ほか,2008,地質雑)とほぼ一致する。また,試料採取地点は火山周辺の地温勾配が高い領域から十分に離れていることを考慮すると,今回得られたAHe年代は,大局的には東北日本弧の山地の隆起・削剥史を反映していると考えられる。より詳細に年代分布を見ると,背弧側では,南方の飯豊・朝日山地では約10MaのAHe年代が卓越するのに対し,北方の太平・白神山地では約5Maと,より若いAHe年代が卓越する。守屋ほか(2008)の後背地解析による検討では,約5Maの出羽山地の隆起開始時には,南方の朝日山地はすでに隆起していたことを考え合わせると,約10Maという年代は,飯豊・朝日山地の隆起開始時期を示している可能性がある。また,AHe年代とZHe年代に共通して,奥羽脊梁山地および背弧側では,山地の周縁部より中心部でより若い年代が得られる傾向が見られた。これは,木曽山脈(Sueoka et al., 2012, IAR)や赤石山脈北部(末岡ほか,2011,地学雑)といった西南日本弧の逆断層地塊山地で,山頂部よりも山地周縁の断層近傍で若い年代が得られたことと対照的である。原因としては,火山弧の存在による,単なる山地内の地温構造の不均質に加え,マグマの貫入によるアイソスタティックなドーム状隆起の影響などが考えられるが,今後の検討課題である。今後の展開としては,AFT年代,ZFT年代,U-Pb年代等の他の熱年代を加えたより詳細な隆起・削剥史の検討や,さらに高密度の年代測定による,各山地の隆起・削剥様式の検討などを予定している。