17:15 〜 18:30
[SCG63-P30] 東北日本弧の基盤岩類における低温領域の熱年代学データコンパイル：AFT年代測定結果速報
キーワード：熱年代学、(U-Th)/He年代、フィッショントラック年代、東北日本弧
日本列島の内陸地殻における応力と歪みの関係の理解や，弾性変形と非弾性変形の分離のために，測地学的時間スケールから地質学的時間スケールまで，様々な時間スケールにおける歪み速度が研究されており（例えば 池田ほか 2012，Nishimura 2014），その比較・検討が重要であると考えられる．測地学的タイムスケールでの歪では，2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の前後における東北地方のGPSデータから，地震前同様に地震後も鉛直方向は沈降を観測し，測地学的歪と地質学的歪の乖離がさらに進行したとの報告がある(西村 2014)．このようなタイムスケールの異なる歪速度のパラドックス（池田 1996，1998）を解明するためには，地質学的タイムスケールからも定量的なアプローチを必要としていることが示唆される．
筆者らは，新学術領域研究「地殻ダイナミクス―東北沖地震後の内陸変動の統一的理解―」の一環として，低温領域の熱年代学的手法を用いて，地質時間スケールにおける東北日本弧の鉛直方向の歪み速度の推定を試みている．試料は白亜紀から古第三紀の花崗岩類を対象とし，北上山地から奥羽脊梁山脈を通って白神山地に抜ける北測線と，阿武隈山地から奥羽脊梁山地を通って飯豊山地に抜ける南測線の2測線，約30地点においてサンプリングを行った．北測線ではアパタイト(U-Th)/He年代（AHe年代），南測線ではAHe年代およびジルコン(U-Th)/He年代（ZHe年代）が得られている（末岡ほか 2016）．既報の東北日本のAFT年代データによれば，太平洋岸では北上～阿武隈山地の花崗岩類から白亜紀の年代が得られており（後藤 2001；Ohtani et al．，2004），白亜紀後期～現在までの総削剥量が約3km以下と推定される．それに対し，日本海岸の飯豊山地や越後山地では，中新世末～鮮新世の若いAFT年代の報告例があり，新第三紀末以降の急速な隆起・削剥を反映している可能性がある（後藤 2001；末岡 未公表データ）．南測線におけるAHe年代では，前弧側の阿武隈山地で約50Maの古い年代に対し，両測線での背弧側のAHe年代値は福島盆地以西では10Maよりも若い値が得られている（末岡 2016） ．これらの若い年代は，日本海拡大（25~15Ma）以降の熱史を反映しているのは間違いなく，出羽丘陵や朝日山地の隆起開始時期（守屋ほか 2008）とも整合的である．また，東北日本弧は中期中新世末から圧縮場に転じ，中新世末～鮮新世から山地の隆起が本格化したと考えられており（太田ほか 2010），若い年代の原因として，山地の隆起に伴う削剥・冷却がまず考えられる．火成活動による年代リセットについては，第四紀火山およびその周辺の高い地温勾配を示す領域（田中ほか 2004）や新第三紀のカルデラ（Yoshida et al., 2013）との位置関係を考えると，可能性は低いと思われる．本講演では，南測線でHe年代が既に報告されている地点に対応した箇所において，新たに得られたアパタイトフィッション・トラック（AFT）年代値の報告を行い，2016年2月現在，東北地方のFT年代・He年代と併せて議論する．AFT年代の測定に関してはHasebe et al．，（2004）で報告されているLA-ICP-MSを用いたFT年代測定法をもとに実施した．今後はU-Pb年代やZFT年代，さらには追加サンプリングによる高密度の熱年代データをもとに，より詳細な隆起・削剥史を検討する予定である．
筆者らは，新学術領域研究「地殻ダイナミクス―東北沖地震後の内陸変動の統一的理解―」の一環として，低温領域の熱年代学的手法を用いて，地質時間スケールにおける東北日本弧の鉛直方向の歪み速度の推定を試みている．試料は白亜紀から古第三紀の花崗岩類を対象とし，北上山地から奥羽脊梁山脈を通って白神山地に抜ける北測線と，阿武隈山地から奥羽脊梁山地を通って飯豊山地に抜ける南測線の2測線，約30地点においてサンプリングを行った．北測線ではアパタイト(U-Th)/He年代（AHe年代），南測線ではAHe年代およびジルコン(U-Th)/He年代（ZHe年代）が得られている（末岡ほか 2016）．既報の東北日本のAFT年代データによれば，太平洋岸では北上～阿武隈山地の花崗岩類から白亜紀の年代が得られており（後藤 2001；Ohtani et al．，2004），白亜紀後期～現在までの総削剥量が約3km以下と推定される．それに対し，日本海岸の飯豊山地や越後山地では，中新世末～鮮新世の若いAFT年代の報告例があり，新第三紀末以降の急速な隆起・削剥を反映している可能性がある（後藤 2001；末岡 未公表データ）．南測線におけるAHe年代では，前弧側の阿武隈山地で約50Maの古い年代に対し，両測線での背弧側のAHe年代値は福島盆地以西では10Maよりも若い値が得られている（末岡 2016） ．これらの若い年代は，日本海拡大（25~15Ma）以降の熱史を反映しているのは間違いなく，出羽丘陵や朝日山地の隆起開始時期（守屋ほか 2008）とも整合的である．また，東北日本弧は中期中新世末から圧縮場に転じ，中新世末～鮮新世から山地の隆起が本格化したと考えられており（太田ほか 2010），若い年代の原因として，山地の隆起に伴う削剥・冷却がまず考えられる．火成活動による年代リセットについては，第四紀火山およびその周辺の高い地温勾配を示す領域（田中ほか 2004）や新第三紀のカルデラ（Yoshida et al., 2013）との位置関係を考えると，可能性は低いと思われる．本講演では，南測線でHe年代が既に報告されている地点に対応した箇所において，新たに得られたアパタイトフィッション・トラック（AFT）年代値の報告を行い，2016年2月現在，東北地方のFT年代・He年代と併せて議論する．AFT年代の測定に関してはHasebe et al．，（2004）で報告されているLA-ICP-MSを用いたFT年代測定法をもとに実施した．今後はU-Pb年代やZFT年代，さらには追加サンプリングによる高密度の熱年代データをもとに，より詳細な隆起・削剥史を検討する予定である．