[S-CG63] 変動帯ダイナミクス

[SCG63-P32] 測地観測および変動地形調査によるスマトラ断層北部のすべり様式

*田部井 隆雄¹、伊藤 武男²、堤 浩之³、木股 文昭⁴、太田 雄策⁵、渡辺 愛梨¹、小澤 拓⁶、大久保 慎人¹、山品 匡史¹、副田 宜男⁷、Gunawan Endra⁸、Ismail Nazli⁹、Nurdin Irwandi⁹、Sugiyanto Didik⁹ (1.高知大理、2.名大院理、3.京大院理、4.東濃地震科学研、5.東北大院理、6.防災科研、7.西日本技術開発、8.バンドン工科大、9.シアクアラ大)

キーワード：スマトラ断層、GPS、SAR、変動地形

インドネシア・スマトラ断層北端部の活動履歴と現在のひずみ蓄積過程を解明する目的で，スマトラ北部のアチェ州で測地観測および変動地形調査を実施している．この地域の地震発生ポテンシャル評価が緊急に必要である理由は，全長1900 kmのスマトラ断層の中で最大のすべり速度を持っていること，120年間以上にわたり顕著な地震活動が無いこと，およびスンダ海溝で発生した2つのプレート間巨大地震（2004年スマトラ-アンダマン地震，Mw 9.2；2005年シムルー-ニアス地震，Mw 8.7）によって局地的にクーロン応力が増加していることによる．
我々は2005年以降連続および臨時GPS観測網AGNeSS (Aceh GPS Network for the Sumatran Fault System)を展開している．異なる緩和定数をもつ5年間の水平および上下変位より，余効変動を支配する複数の物理メカニズム（余効すべりと粘弾性緩和）を提唱した（Gunawan et al., 2014）．また，スマトラ断層アチェセグメントに沿ったクリープ/固着分布を推定した（Ito et al., 2012）．その結果，このセグメントはM7級の地震を発生させる可能性を有している．2013年には観測網内で相次いで2つのM6.1の地震が発生し，これに伴う明瞭な地震時変動が観測された．
断層の長期の活動履歴解明のため，合わせて変動地形学調査を実施している．ALOS/PRISMによる実体視可能な衛星画像を判読し，断層の地表トレース図を作成するとともに，それを確認するための現地調査を行った．トレースは断層崖地形，プレッシャーリッジ，線状谷，河谷の屈曲などで同定できる．さらに，測地測量の反復によって断層クリープを直接測定する小アレイを4ヶ所に設置した．2015年には，1ヶ所でトレンチ掘削調査を実施し，少なくとも3回の断層活動の履歴を発見した．今後は試料の炭素年代測定を行い，最新活動の時期と活動間隔を決定する予定である．
GPS観測点や変動地形調査地点の分布が限られるため，ALOS/PALSAR画像のInSAR解析を行った．2007年から2009年まで約3年間にわたるスタッキング画像は，断層をはさんで片側が衛星視線方向（LOS）へ短縮し，反対側が伸長する明瞭な対比を示している．断層を横断するLOS変化のプロファイルには，断層の地表トレースの位置で10-15 mm/yrの階段状のオフセットが見られる．LOS変化のパターンはスマトラ断層の右横ずれと調和的である．ただし，予測される断層すべり速度に対し，オフセット量は過大すぎるように見える．今後はGPS変位速度や変動地形学的情報も加え，LOS変化の解釈を進めたい．