日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM34] 地磁気・古地磁気・岩石磁気

2016年5月24日(火) 10:45 〜 12:15 コンベンションホールA (2F)

コンビーナ:*松島 政貴(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)、菅沼 悠介(国立極地研究所)、座長:菅沼 悠介(国立極地研究所)、畠山 唯達(岡山理科大学情報処理センター)

10:45 〜 11:00

[SEM34-01] 出雲市杉沢遺跡炉跡の古地磁気学

*畠山 唯達1 (1.岡山理科大学情報処理センター)

キーワード:考古地磁気学、古地磁気学、弥生時代

考古遺跡を対象として過去の地磁気方位の復元を試みる考古地磁気方位測定では、遺跡の被熱面を定方位採取し古地磁気測定を行う。通常、被熱面は見た目によく焼かれているものが多く、明らかに磁鉄鉱のキュリー温度を上回っている。特に須恵器等を焼成した閉鎖窯跡では良く火が当たる天井のみならず床面もかなり高温に焼き固められている場合が多く、熱残留磁化を保持しているという意味では極めて良質なものが多い。しかし、古墳時代前期・5世紀前半に日本において須恵器窯が登場する以前は上が開いた状態の窯や炉の跡が測定の対象となるため、これらの被熱度合いが大きな問題となる。さらに被熱遺構の量および年代値の不確定性もあって、弥生時代以前の考古地磁気測定の量は極めて少なく、その値のばらつきもかなり大きい。
そのような中で、今回は弥生時代中期後葉(紀元前後)の大規模集落における住居・建物跡から見つかった炉跡と考えられる被熱床面に対する古地磁気・岩石磁気を行った結果を報告する。対象は島根県出雲市(旧斐川町)にある杉沢遺跡で、工業団地の造成に伴って発見・発掘されている比較的大きな集落跡である。集落のごく近傍には当時の山陰道が推定され、活発な人の行き来があった場所に位置すると考えられている。発掘は出雲市教育委員会によって行われ、自然科学測定の一環として古地磁気測定を行った。試料は遺跡内C丘陵に位置する「竪穴建物3(SI02)」および「加工段10(SI03)」内の被熱床面より表面付近が赤色化した10-15cmのブロック試料を各6個採取した。また、対象測定を行うためにそれぞれの建物跡より2ブロックずつ被熱していないと思われる床面(被熱部位より1~2m離れた位置より)を採取した。
スピナー磁力計を用いた予備測定により、この試料の残留磁化はいずれもかなり弱いことが分かったので、高知大学海洋コア総合研究センターの超伝導磁力計を用いて、測定を行った。その結果、多くの被熱床面試料の残留磁化は極めて不安定でばらつきが大きいことが分かり、どれが初生であるかの判断をすることが困難であった。
一方で、いくつかの試料に対して磁気天秤を用いた熱磁気分析(真空中)を行ったところ、降温時には約400℃より低温部で昇温時より低い磁化強度を示した。このことから昇温時400℃付近で還元的環境下における化学的変質が起きて別の磁性鉱物に置き換わったことが想定される。温度条件等から、この磁性鉱物の変化はマグヘマイト→マグネタイトと想定される。前者・後者ともに元から床面(土壌)中に含まれると考えられるが、残されたマグヘマイトは、炉使用時に元からあったものが変質されずに残ったものと考えるのが妥当であろう。つまり、この炉の床面は操業時に400℃以上まで加熱されなかった、あるいはごく表層のみが加熱され、試料厚さ(1.5cm)内ではすでに400℃以下の温度にしかならない深さであった、と考えられる。古地磁気方位測定を行った中で、最も安定な磁化方位を示したサンプルでは、熱磁気分析の昇温時と降温時の磁化の差が最も小さかった。この試料は他と比べて良く加熱された部位から採取したものと推定される。