日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM35] 電気伝導度・地殻活動電磁気学

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*市來 雅啓(東北大学大学院理学研究科)、宇津木 充(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター)

17:15 〜 18:30

[SEM35-P08] 野島断層注水実験に伴う自然電位変動の原因

*村上 英記1 (1.高知大教育研究部自然科学系)

キーワード:野島断層、自然電位、流動電位

1995年兵庫県南部地震(Mw=6.9)の地表地震断層である野島断層において,断層の回復過程を調べるために繰り返し注水実験がおこなわれている。注水実験では,野島断層近傍に設置された1800m孔に注水をおこない,注水孔から水が流出する際の圧力変化や,近傍に設置された800m孔の湧水量や歪計の変化,周辺部の微小地震活動,そして地表における自然電位計測を実施している。1997年の注水実験において,注水に同期して自然電位の変動が観測さて次のような特徴があることが分かった:1)注水の操作に同期して自然電位が変動する,2)注水孔周辺の電位が負側に変動する,3)注水孔から離れると変動の大きさが小さくなる。これらの自然電位変動の特徴は,注水孔から水が流出する際に発生する流動電位を注水孔のケーシング・パイプが伝えるというモデル(Line Source Model:LSM)により解釈できる。以後,2000年,2003年,2004年,2006年,2009年の注水実験においても同様の変化が観測されており,1997年から2003年までのデータから地下の透水係数が小さくなっていると推定した(Murakami et al., 2001,2007)。同様な結果は,湧水量や歪データの解析からも得られている。
注水に伴う自然電位変動の基本的な特徴は,繰り返し注水実験において同様に観測されているが。2004年以降とりわけ2006年以降,注水孔に最も近いA測線の注水孔から40m以遠における自然電位変動が負側ではなく正側に変化した。これは,LSMモデルでは説明できない変動である。変動は注水の開始と停止に同期した変動なので,注水を原因とする自然電位変動であることは間違いない。しかし,従来のLSMモデルでは説明ができない。LSMモデルでは,水が流れて行く方向に発生する正の電荷については無限遠,少なくとも測定の範囲外としていた。注水孔から半径40m~70m以内の測定範囲内に正の電荷が存在すれば注水孔から離れた地点で自然電位変動が電位的に正側に変化する場合がある。正の電荷が注水孔から一定の距離に環状に分布しているというモデル(Circular Source Model : CSM)で表現してLSMとの重ね合わせで地表の電位分布がどのようになるのかを検討した(村上,2014)。しかし,注水孔から少し離れたB測線における変動には正側に変化する自然電位の変動は観測されていない。これは,注水孔から流出した水が等方的に拡散している場合には不都合である。また,注水孔からの距離に対する変動の大きさの分布のLSMモデルに対するズレの特性がうまく説明できないという問題もある。
本発表では,上記のような問題点を解決することが可能なモデルの一つとして,LSMモデルにA測線の自然電位変動が正側に変動した地点の地下に正負の電荷を持つモデル(Dipole Source Model)を持ち込むことでローカルな自然電位変動の特性を定性的には説明できるようになったこと,及び残る課題について紹介する。
謝辞 本研究の観測は,『地震予知のための新たな観測研究計画』の研究課題「断層の回復過程の研究 -野島断層および周辺活断層の深部構造の研究-」(京都大学), 『地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)』の研究課題「断層における注水実験および応力状態の時間変化」(京都大学)において実施された注水実験の際に行った。観測にあたり協力をいただきました西上欣也教授(京都大学),大志万直人教授(京都大学),山口 覚教授(大阪市大),吉村令慧准教授(京都大学)をはじめとする関係者の皆様に感謝いたします。