日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC50] 固体地球化学・惑星化学

2016年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 A07 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、石川 晃(東京大学大学院総合文化研究科)、飯塚 毅(東京大学)、座長:石川 晃(東京大学大学院総合文化研究科)、飯塚 毅(東京大学)

14:45 〜 15:00

[SGC50-05] 南太平洋ピトケアン島におけるメルト包有物の地球化学的研究

*小澤 恭弘1羽生 毅2岩森 光2,1浜田 盛久2牛久保 孝行3清水 健二3伊藤 元雄3木村 純一2常 青2石川 剛志3 (1.東京工業大学、2.海洋研究開発機構 地球内部物質循環研究分野、3.海洋研究開発機構 高知コア研究所)

水や揮発性元素の存在は、マントルダイナミクスを考える上で重要であるが、マントル由来の火山岩からマントル中の揮発性元素量や分布を制約するような研究はまだ少ない。そこで、揮発性元素を保持していると考えられるオリビンメルト包有物に対して、揮発性元素と同時に主要元素、微量元素、鉛同位体比を局所分析することを試みた。南太平洋のピトケアン島に産するメルト包有物について予察的な結果を得たので報告する。ピトケアン島の火山岩の同位体組成はDMからEM1の範囲を示すが、本研究ではEM1的な岩石試料からPC-41とPC-87Aの2つの玄武岩選択し、複数の分析装置により局所分析するために50μm以上の比較的大きいメルト包有物を用意した。それぞれのメルト包有物は特徴が異なり、PC-41のメルト包有物には自形の単斜輝石を晶出するもの、角閃石 とイルメナイトを晶出するものの2種類があった。一方PC-87Aのメルト包有物は、均質なガラスもしくは樹枝状の単斜輝石を均等に含む。分析領域は晶出した鉱物から最大限離れたガラスあるいは石基領域に設定した。始めに揮発性元素(H2O, CO2, F, P, S, Cl)を15μm径で、続いて鉛同位体を30μm径でSIMS(IMS 1280-HR)を用いて測定した。次にFE-EPMAにより10μm径で主要元素の測定を行った。最後に、LA-ICP-MSを用いて20μm又は30μm径で主要元素と微量元素について測定を行った。PC-41とPC-87AはPb同位体比に関して差はなく、全岩の同位体比と同じ範囲に入った。一方、元素組成に関しては両者に差があることが示された。MgOと他の主要元素について比較してみると、PC-87Aは全岩組成のトレンドに一致するが、PC-41は明らかにこれから外れた2つのトレンドを示す。この2つのトレンドは包有鉱物種の違いと相関していることから、メルト包有後に結晶晶出により分別したものだと考えられる。また、PC-41がPC-87Aに比べてMgOが低いことも、PC-41で分別がより進んでいることと調和的である。微量元素については、PC-87Aが全岩の組成に一致する一方、PC-41ではPC-87Aと同様の組成を持つものとそれとは異なる組成を持つものが見つかった。これは晶出鉱物や主要元素の違いとは相関を持っていなかった。そして、後者は特徴的に重希土類元素が低い値を持ち、これは高圧下でガーネットと共存していたメルトがマグマだまりに流入し、マグマだまりで組成の不均質を生じている可能性を示唆している。 揮発性元素に関しては、PC-41とPC-87AでH2O量に顕著な差が見られた。PC-87Aは0.37‒0.81 wt.%であるのに対して、PC-41は、0.03‒0.10 wt.%と低い値を示す。CO2は共に脱ガスや気相への濃集の影響により元の値を保持していないと考えられる。しかし、比較的脱ガスしにくいハロゲンについては、例えばClが570-1700 ppmと高濃度であり、H2Oや微量元素との相関も見られることからマグマの組成を反映していると考えられる。今回の分析により、PC-87Aのような急冷され均質なメルト包有物は、比較的深部の情報を保持している可能性があり、メルト包有物からマントルソースでのH2Oや揮発性成分組成を見積もる上で有用ということが分かった。しかし、PC-41のような晶出結晶を多く含むメルト包有物は、そのH2Oの量が脱ガスや拡散の過程で大きく減少し、メルト包有物組成から初生マグマの組成を推定することは難しいことに留意する必要がある。