日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC50] 固体地球化学・惑星化学

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、石川 晃(東京大学大学院総合文化研究科)、飯塚 毅(東京大学)

17:15 〜 18:30

[SGC50-P02] CO2-H2Oを含むカンラン岩の部分融解実験:リンの無機的供給源としてのカーボナタイトの成因

小澤 亜耶1、*小木曽 哲1河上 哲生1 (1.京都大学)

キーワード:高圧実験、カーボナタイト、リン

リンは生体必須元素の一つである。地球表層においては、リンは難容性かつ難揮発性であるため、生物が利用しているリンの究極の供給源は固体地球であると考えられる。したがって、固体地球からのリン供給メカニズムおよびその変遷は、地球における生命の誕生と進化に大きな影響を及ぼしたはずである。現在の地球で固体地球から供給されるリンの大半は、大陸に露出する岩石の風化・浸食によるものであると考えられている。しかし、生命が誕生した頃の初期地球にどんな種類の大陸がどれほどの量で存在していたかは明らかではなく、初期地球における主要なリンの供給源を特定することは難しい。
一方、地球上には、平均的な大陸よりはるかにリンを多く含む岩石が存在する。そのなかでもカーボナタイトは、最大で10 wt.%を越えるP2O5を含む。カーボナタイトの存在量は非常に少ないが、炭酸塩鉱物から構成されているため、珪酸塩主体の通常の岩石より風化しやすい。したがってカーボナタイトは、地球史を通じて生物圏に大きな影響を与える得る量のリンを供給してきた可能性がある。カーボナタイトの成因については、CO2(±H2O)を含むカンラン岩が2GPaより高圧で部分融解することによって生成され得ることが実験的に示されている。しかし、そのような条件で生成されるメルトにどの程度のリンが濃集するのかについては明らかでない。そこで本研究では、始原的マントル組成のカンラン岩についてCO2 + H2O飽和条件での高圧部分融解実験を行い、マントルで生成されるカーボナタイトメルトへのリンの濃集度を明らかにした上で、天然のカーボナタイトにみられるリンの濃度を実現するプロセスについて検討した。
実験には、始原的マントル組成をもつKLB-1カンラン岩に10 wt.%のシュウ酸を加えた出発物質を用いた。ピストンシリンダー装置を用いて2.5 GPa・1100~1250℃の温度圧力条件で部分融解実験を行い、得られた実験生成物の化学組成をEPMA装置およびSEM-EDS装置を用いて分析した。その結果、1150℃でSiO2濃度が4 wt.%以下のカーボナタイトメルトが、1200℃でSiO2濃度が32 wt.%の珪酸塩メルトが生成された。1150℃で生成されたカーボナタイトメルトのP2O5濃度は0.15 wt.%であった。マスバランス計算から求められた部分融解度(~10 wt.%)を基に計算されたリンの全岩分配係数は0.11であった。この値を用いて、より低い部分融解度でカーボナタイトが生成された場合のP2O5濃度を求めると、最大でも0.3 wt.%程度であり、天然のカーボナタイトにみられるような高い値にはならない。このことは、リンに濃集したカーボナタイトが生成されるには、始原的マントルの部分融解に加えて、何らかのリン濃集過程が必要であることを示している。その可能性の一つとして、マントルで生成されたカーボナタイトメルトの交代作用によって周囲のマントルにリンが濃集し、その部分が後から上昇して来たメルトによって再溶融する、という過程が考えられる。この過程には、通常のマントル地温勾配より低い温度でCO2がマントルに十分に供給される必要があるが、それは初期地球の沈み込み帯で実現可能である。その詳細については発表時に議論する。