日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD22] 重力・ジオイド

2016年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*西島 潤(九州大学大学院 工学研究院 地球資源システム工学部門)、青山 雄一(国立極地研究所)、座長:今西 祐一(東京大学地震研究所)、風間 卓仁(京都大学理学研究科)

15:00 〜 15:15

[SGD22-06] 重力観測データの独立成分分析解析とその応用

*板倉 統1福田 洋一1風間 卓仁1WAHYUDI Eko januari2 (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、2.バンドン工科大学)

キーワード:重力、独立成分分析

ICA(Independent Component Analysis: 独立成分分析)は、非ガウス分布で互いに無相関の線形混合シグナルを分離する多変量解析手法である。重力観測データは、質量変化と観測点との距離の違いによってシグナルが混合しているデータであるため、ICAが適用可能であると考えられる。
測地学分野ではICAの衛星重力観測データへの適用例 (Guo et al., 2014, Forootan et al., 2011など)や幾つかの応用研究があるが、今後は地上重力観測データへの適用も期待される。我々は、3台のgPhone重力計データへの適用を試み、PCA(Principle Component Analysis: 主成分分析)よりも良好に観測シグナル(気圧、傾斜)が分離できることを報告した(2015 JPGU)。しかしながら、ICAは統計的手法であり、分析結果が有意な地球物理学的現象を示しているとは限らない。そのため、ICAが適用できる条件を予め整理する必要がある。
そこで本研究では、地上で観測されうる1年間の時系列重力シグナルを擬似的に作成し、任意の比率と観測点数で混合したデータにICAを適用し、その結果と元データとの比較を繰り返すことで、ICAがどのような場合に有効であるかの評価を行った。ここで使用したICAは、広く用いられているfastICA(A. Hyvarinen et. al, 2000)と呼ばれるアルゴリズムである。なお、本研究ではトレンド成分も分離できるように混合データに対して前処理を行った。
地上で観測されうる時系列重力シグナルは、ランダムノイズ、ランダムウォーク、地下水位変動、周期変動、長期変動に分類できると仮定し、それぞれ以下に述べる方法でシミュレーションデータを作成した。ランダムノイズは観測点や重力計に固有のノイズを想定し、各観測点にそれぞれ別々に作成したデータを使用した。ランダムウォークとしては、例えば気圧変動などを想定している。地下水位変動は、降雨によって瞬間的に増加したのち指数関数的に減少する変動を想定し、ランダムな降雨に指数関数の重みをかけ積算したものを用いた。周期変動は潮汐補正によっても除ききれなかった潮汐変動を想定し、日・月・年の周期と半周期の三角関数を使用した。長期変動は、広域の地下水量や地熱貯留量などの変化を想定し、10年周期の三角関数の2π/100ずつ位相を変えたものを使用した。
これらのデータは、予め分散を1に正規化した上で、任意の比率(0〜30)を掛けて混合を行った。また、観測点数も任意の数(2〜10)とすることで、観測点数と成分数の違いによるICAの分離精度の評価も同時に行った。ICAの分離精度は、元シグナルとICAによる成分との相関係数によって、混合比率と成分の種類、観測点数について評価を行った。
これらの結果、周期変動シグナル同士あるいは長期変動と周期変動シグナルからなる混合データは、混合比率によらずトレンド成分も含めて元のシグナルへの分離ができた。一方で、地下水位変動と長期変動・周期変動シグナルの混合データの場合、地下水位変動の振幅がその他のシグナルの振幅よりも概ね一桁以上大きい場合に、良好な分離結果を得られなかった。しかしながら、これらの定量的な評価にはまだ課題があり、特にノイズを含んだ場合などでの、分離の良否を定量的に評価する方法の導入が必要である。今後、評価方法を改善した上で、ICAの適用条件について更に精査し、より具体的な応用についての検討を行う予定である。