日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD22] 重力・ジオイド

2016年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*西島 潤(九州大学大学院 工学研究院 地球資源システム工学部門)、青山 雄一(国立極地研究所)、座長:田中 愛幸(東京大学地震研究所)、青山 雄一(国立極地研究所)

16:30 〜 16:45

[SGD22-11] 光格子時計を用いた重力ポテンシャル計測の測地学・地震学・火山学への応用の可能性

*田中 愛幸1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:光格子時計、ジオイド、重力、相対性理論

一般相対論に基づいて,周波数のずれから重力ポテンシャル差を直接計測することのできる光格子時計が開発され,その相対精度が,数時間で10-18(高さに直すと1 cmに相当)のオーダーに達しようとしている.光格子時計を用いた相対論的測地学により計測された地表の重力ポテンシャル差を他の測地データと組み合わせることで,高さの基準となる静的なジオイドモデルの精度が向上することが期待されている.しかしながら,安定な大陸地域と比べて地殻変動の活発な日本のようなプレート沈み込み境界では,テクトニックな現象による重力ポテンシャルの時間変化も考慮すべきである.本発表では,1 cmの精度でポテンシャルの時間変動を監視することの地球物理学的な意義について考察する.測定されるポテンシャルの変化は,実用的には,地下の質量分布の変動よりも高さの変動にずっと敏感である.このことは,光格子時計が高度計として使えることを意味し,GNSS等の宇宙測地技術で決定された高さの検証を可能にする.GNSS等と異なり,ポテンシャル測定は大気遅延誤差に悩まされることがない.高さの決定精度が向上することは,基準座標系の精度管理・地殻変動監視・移動体の位置計測(将来的に小型化した時計を搭載した場合)の精度が向上するといった直接的な効果の他にも,高さの測定を通した地球物理現象の把握・解明にも役立つ.例えば,GNSS気象学において,より短時間により高い精度で高さが決定できれば,水蒸気量の推定精度を上げることができるかもしれない.重力測定結果も高さの変動を感知できるが,地表付近の地下水の擾乱による影響も受けやすい.ポテンシャルの場合,重力と比べて距離が近いものからの寄与が弱まるので,その影響はほとんど無視できる.したがって,重力計と光格子時計を組み合わせた連続観測を行い,高さによる見かけの重力変化をポテンシャル計測で補正してやれば,これまでGNSSの高さの時間分解能では困難だった,数時間以内のマグマ等の地殻流体の変動を明らかにできる可能性がある.