日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD23] 測地学一般・GGOS

2016年5月23日(月) 10:45 〜 12:15 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*松尾 功二(国土地理院)、風間 卓仁(京都大学理学研究科)、川畑 亮二(国土交通省国土地理院)、座長:宮原 伐折羅(国土交通省国土地理院)

11:15 〜 11:30

[SGD23-09] 近接設置した海底局からの音波の走時差を用いた局所地殻変動計測 ―日本海溝断層地形の挙動のモニタリング―

*木戸 元之1芦 寿一郎2辻 健3富田 史章4 (1.東北大学 災害科学国際研究所、2.東京大学 大気海洋研究所、3.九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所、4.東北大学大学院 理学研究科)

キーワード:音響測距、GPS音響結合方式、バック・スラスト、海底測地

沈み込み帯の海溝軸に近い領域には、地質学的な時間スケールで何度も繰り返される地震発生サイクルにより形成された断層地形が多く見られる。これらの断層が、地震発生サイクルの中のどのようなタイミングで運動するかについては、実データが無くあまり把握されていない。そのような海底での断層運動を計測する手段として、海底間音響測距が一般的に用いられる。しかし、同手法は海底に設置した機器同士の音響通信が必要であり、設置する地形によっては音響パスを確保することが著しく困難なことも多い。そこで、我々は海底間同士の通信の必要のないGPS音響測距 (GPS/A) 観測のレイアウトを工夫し、短基線の相対変位を検出できるような手法を考案した。さらに、日本海溝沿で、バックスラストと解釈されている断層地形で、考案した観測手法に基づく観測を開始した。

海底間音響測距の繰り返し観測精度は、基線長にほぼ比例し、概ね1cm/km程度である。一方で、GPS/A観測の個々の海底局の位置決め精度は数〜10cm程度である。GPS/A観測の精度低下の主な要因は、海中音速の時空間変化、キネマティックGPS測位精度、音響波形の走時読み取り誤差である。GPS/A観測に用いる海底局を、断層をまたいで対で設置し、海上で収録するそれぞれの音響波形同士の走時差を読み取ることにより、波形の歪みが相殺され読み取り誤差は無視できる量となる。また、海中音速の影響も、パスが異なる海底付近の基線長部分に限定されるため、その殆どが相殺できる。さらに、走時差を見ているためGPS測位の絶対位置の誤差は無関係となり、送信時刻は共通なので受信時刻差の0.1s程度の時間内での相対位置誤差のみとなる。これらのことを勘案すると、基線100-300mの海底局同士の相対位置を1cm程度の精度で計測できる見込みがある。一般的な海底間音響測距と比較して、以下の長所がある。海底同士での音響パスの確保は必要ないので設置が容易である。2局のみで3次元の相対変位を計測できる。一方、短所としては、キャンペーン観測である(連続データではない)、実用精度を得るには基線を100-300m程度以下にしなくてはならない。

2015年9月のKH15-02白鳳丸航海で、3台のGPS/A用海底局を、日本海溝沿い北緯38.171度、東経143.550度、水深3500m付近の断層崖の上部と下部に設置した。海底間音響測距と違い崖の斜面に設置する必要はないが、基線をなるべく短くするように、崖の上部と下部の平坦面の端を目視で確認しながら設置するため、船からの遠隔作業および映像の伝送が可能なNSSシステムを利用した。設置直後および2ヶ月後に、初回の観測を実施し、繰り返し観測精度を確認するためのデータを得た。断層崖の挙動をモニタリングするためには、今後定期的にキャンペーン観測を実施していく必要がある。

講演では、今回提案した観測手法で各種誤差が相殺される原理を説明し、想定される誤差要因に対し、相殺できない分を定量評価する。また、定量評価の結果と、初回の観測で得られた繰り返し観測精度の実測値との比較を行う。