日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD23] 測地学一般・GGOS

2016年5月23日(月) 10:45 〜 12:15 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*松尾 功二(国土地理院)、風間 卓仁(京都大学理学研究科)、川畑 亮二(国土交通省国土地理院)、座長:宮原 伐折羅(国土交通省国土地理院)

11:45 〜 12:00

[SGD23-11] 準リアルタイムGPS PPPによる時刻・周波数比較

*瀧口 博士1後藤 忠広1市川 隆一2 (1.情報通信研究機構電磁波計測研究所、2.総務省)

キーワード:GPS、単独測位、時刻・周波数比較、リアルタイム

GPSによる時刻・周波数比較にはいくつかの方法があるが、最も高精度な方法は搬送波位相(carrier phase)を用い、精密単独測位(Precise Point Positioning; PPP)を行う方法で、GPS CP、或いは、GPS PPPと呼ばれる。PPP解析では、高精度な暦(GPS衛星の軌道や時計情報)が必要であるため、解析を行うには、IGS(International GNSS Service)の速報暦の場合約17時間、精密暦の場合2週間程度、暦が提供されるのを待つ必要が有った。他の時刻比較法(GPS P3や衛星双方向)では、ほぼリアルタイムで時刻比較結果が得られる為、この点がGPS PPPの短所であった。しかしながら近年、リアルタイムポジショニングの需要の高まりから、IGS内でReal-Time Serviceが立ち上がり、GPSデータやGPS衛星の軌道・時計情報のリアルタイムストリーミングが開始されている。このサービスで提供されているGPS衛星の軌道・時計情報(これ以降、リアルタイム暦)は、IGSの速報暦と比較して、軌道でRMS 5 cm以下、衛星時計でRMS 300 psが達成されている。従来から、速報暦より提供が早く、精度もリアルタイム暦より高精度である、超速報暦が3〜9時間後に提供されている。しかしながら、時刻比較で使用される事は稀である。リアルタイム暦は、精度は超速報暦に劣るものの、リアルタイムで得られるという点が重要で、例えばタイムリンクのモニタリングなど、最終的な時刻比較とは異なる目的に使用できる可能性がある。そこで本研究では、このサービスを用いたGPS PPPで、どの程度の時刻比較結果が得られるのか検証を行った。
検証は、タイムリンク、解析方法(ソフトウェア;c5++、及び設定)を共通にし、速報暦とリアルタイム暦、それぞれを用いて解析を行った結果を比較した。その為、リアルタイム暦を用いた解析は、リアルタイムで行う事はせず、速報暦同様、24時間分のデータを記録し、clk/sp3ファイルに変換して解析を行った。今回、リアルタイム暦として、提供元が異なる、2つの暦を使用した。一つ目は、IGS RTS提供の物(IGSリアルタイム暦)で、NRCanとBKGおよびESA/ESOCのサポートにより、ストリーミング(Ntrip protocol)で配信されている。それぞれのリアルタイム解析センターで、独自に解析・配信が行われているが、今回は、BKGのIGS03(GPSとGLONASSの補正情報)を使用した。BKG Ntrip Client (BNC)を用い、リアルタイムでIGS03およびRTCM3EPH01(放送暦)を受信し、clk及びsp3ファイルに変換した。もう一つは、JAXAが開発を行っている、複数GNSS対応高精度軌道時刻推定ツール「MADOCA (Multi-GNSS Advanced Demonstration tool for Orbit and Clock Analysis)」で作成された物(MADOCA暦)を使用した。MADOCA暦は、測位衛星の軌道等がストリーミング配信、ftp、将来的にはLEX(L-band experimental)信号で提供されている。今回は、ftpで取得可能な、1日毎のsp3を使用し、clkファイルは、IGSリアルタイム暦の物を使用した。
情報通信研究機構小金井本部と未来ICT研究所間、及び小金井本部と標準電波送信所(おおたかど山及び、はがね山)間のGPSリンクで、24時間データを1日毎に、2015年2月からの9ヶ月分解析して検証した。結果、リアルタイム暦(IGSおよびMADOCA共に)で求めたリンク間の時刻差変動は、速報暦、および衛星双方向で求めた結果と良い一致を示した。速報暦とIGSリアルタイム暦の差は、RMSで約100 ps、速報暦とMADOCA暦の差は、RMSで約200 psであった。この差は、定常的にモニタリングを行っているタイムリンクにおいて、何らかの影響で変化が起こった事を読み取るには十分小さい。この事から、リアルタイム暦(IGSおよびMADOCA共に)を用いたGPS PPPは、タイムリンクの高頻度モニタリングには十分使用可能であると言える。講演では、上記リアルタイム暦の検証について述べると共に、実際にタイムリンクのモニタリングを行う際の解析戦略について提案する。
謝辞:本研究では、IGS提供の速報暦及びリアルタイム暦を使用した。また、JAXA提供のMADOCA暦も使用した。解析には、c5++を用いた。ここに記して感謝の意を表する。