日本地球惑星科学連合2016年大会

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セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL37] 地域地質と構造発達史

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*大坪 誠(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、山縣 毅(駒澤大学総合教育研究部自然科学部門)

17:15 〜 18:30

[SGL37-P16] 伊那市長谷における中央構造線近傍の領家帯の中新世テクトニクス

*小野 晃

キーワード:鹿塩マイロナイト、中新世テクトニクス、長谷断層

長野県の伊那市や大鹿村の中央構造線(MTL)付近には非持トーナル岩が分布している(添付図 A, B).岩相変化が著しい花崗岩体であり,縞状や片麻状のトーナル岩などが各地で層状構造をなしている.非持トーナル岩の冷却中には変成花崗岩(月蔵山変成岩)やマイロナイト(鹿塩マイロナイト)が形成されている.堆積岩起源の変成岩が非持トーナル岩の層状構造と調和的に各地に認められる.MTLの近傍地域に特に多く分布している.変成岩の原岩は泥岩,砂岩,珪質泥岩,泥質チャート,チャート,混在岩,凝灰岩などである.
マイロナイトがMTLに沿って分布している.雲母鉱物に富むマイロナイトの基質鉱物は,MTLにほぼ直交する方向ではMTLに向かって細粒化している(添付図 C).しかし,片理面の走向方向ではほとんど変化していない.基質鉱物の粒径は温度を反映している.片麻状花崗岩,変成花崗岩,堆積岩源変成岩,マイロナイトの面構造の走向は,分杭峠南方の大鹿村では N10-30°Eである.一方,分杭峠北方の伊那市長谷では N30-50°Eが一般的である[1].面構造は高角度に傾斜し,メートルスケールの褶曲構造がしばしば認められる.
MTL近傍の堆積岩源細粒マイロナイトには放散虫化石の痕跡と微細な堆積組織が一般的に認められ(添付図 A),マイロナイトの原岩は低~中変成度の黒雲母片岩などであると推定される.これら細粒なマイロナイトの西方には領家片麻岩起源のかなり粗粒のマイロナイトが点在している.片岩地域と片麻岩地域は,それらの分布状況を大局的に見ると,南北性の断層で接しているようにみえる.しかし,それは中新世におけるテクトニクスの結果であって,白亜紀後期における走向はNW-SE方向であった可能性が高い.この問題に関連して,馬越集落付近に存在する長谷断層が注目される(添付図 B).
長谷断層の東方には微細な堆積岩源マイロナイトが花崗岩を伴って分布している.長谷断層の西方には花崗岩がおもに分布しており,堆積岩源変成岩はほとんど認められない.長谷断層近傍の花崗岩は著しい変質作用を受けている.断層面の傾きはほぼ鉛直である.長谷断層を境にマイロナイトの基質鉱物の粒度が急変している.面構造の走向は長谷断層の両側でほぼ同じである.長谷断層は中尾集落の三峰川付近にも推定され,長谷断層に近い川岸の露頭には南北性の断層が多い.長谷断層の延長部とみられる断層は添付図 Bの北端部にも存在し,その位置が文献[1]に図示されている.
以上の地質データから次のようなテクトニクスが想定される.片麻岩分布域と放散虫化石を含む片岩分布域は,走向が現在の方位でおよそN45°Eの断層で接していた.そこに花崗岩マグマが貫入し,マグマ固結後の冷却過程で変成花崗岩やマイロナイトが形成された.これらの岩石の片理面や褶曲軸面の走向は,原岩の領家変成岩と同じく約N45°E方向であった.その後,内帯からみて外帯(赤石山地)の北方への水平移動と反時計回りの回転が中新世に起きて,南北性のMTLが形成される.この変動に伴って,MTL近傍の領家帯の地質体にも反時計方向の回転運動および系統的な左横ずれ断層の活動(添付図 D, E)が生じた.その結果,地質体の分布状態が大きく変化した.
回転運動に関しては,片理面などの面構造の走向方向からみて,分杭峠南方の地域が北方の地域に対して反時計方向に回転したことは確定的である[1].系統的な左横ずれ変位を伴う複数の断層については,長谷断層の形成機構から想定される.すなわち,ほぼ片理面の方向(N45°E)に分布していた片岩起源のマイロナイトは,N-S方向やNW-SE方向の左横ずれ断層の活動によって,片理面の走向を保持しながらN-S方向の分布に変化したと考えられる(添付図 D, E).実際に,左横ずれを示すNW-SE方向の小断層が複数の露頭で確認されている.なお,破砕帯を伴う断層は調査地全域に非常に多く,馬越断層と長谷断層は最も顕著な断層である.断層にはN-S方向やNW-SE方向の他に,E-W方向や片理面と調和的な方向のものも少なくない.
[1]小野,2012,日本地球惑星科学連合2012年大会予稿集,SGL44-P04.