日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL38] 地球年代学・同位体地球科学

2016年5月24日(火) 13:45 〜 15:15 303 (3F)

コンビーナ:*田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)、座長:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)

14:30 〜 14:45

[SGL38-04] 鉱物中の拡散と開放温度:球状拡散

*兵藤 博信1 (1.岡山理科大学自然科学研究所)

キーワード:拡散、開放温度、閉止温度、球、緩和時間

Dodson (1973)が定義した閉止温度の概念はその後の同位体年代の解釈に広く適用され多くの地質学的な解釈に役立ってきた. しかしその具体的な温度の導出には熱水実験による拡散パラメータ―の測定など厳密な物理化学的実験をベースにしながら定義の部分にはあいまいさが残っていた. Dodsonが用いたある特定の温度で拡散係数が急激に減少するために同位体時計が実質的にスタートするという表現を拡散現象から見ると, 一体どの程度の数値なのかという点が実は具体的でない. 閉止温度の決定には冷却速度という不定性が残るので±50oC程度の誤差であっても解釈によって異なってくる. このことが拡散定数に具体的数値を与えない一つの原因である. 閉止温度は岩体の冷却にともなう同位元素の実質的蓄積という観点から定義されたが, ここでは40Ar/39Ar法における段階加熱過程のように二次的な熱事象が鉱物の拡散過程に影響を及ぼす場合を考える.
一様に分布した元素がある温度で拡散する過程を記述する方程式は様々な拡散形状に対して厳密解が求まっている(たとえばCrank, 1975). ここでは熱的事象に対して一番抵抗性の大きい等方的な球状の拡散をとりあげる. 仮にある温度で99%のガス損失を受けた場合はほぼ完全リセットとみなすことができる. これは開放温度(unclosure temperature)の上限をきめる. 球状の拡散では全体の20%を超えるガス損失があった場合, 段階加熱の結果において真の年代からのずれが大きくなることが分かっている(Turner, 1968). つまり20%以上のガス損失では真の年代に近い値を保持することができない. この関係で定義される温度を下限とすることができる. すなわちこれ以上の値では部分リセットをおこすという温度である. これらは拡散現象としておきるので加熱温度の継続時間tとの一定の関係がきまる. 古地磁気学の緩和時間(Pullaiah, et al., 1976)と対比されるものである. 岩体の冷却過程のおける閉止温度と冷却速度という概念に比べ, 二次的な熱事象における鉱物の拡散に対する開放温度と緩和時間という考え方で地質事象における「温度」の意味がより明確になった.
参考文献
Crank, J. (1975) The mathematics of diffusion, 2nd ed. Oxford Univ. Press, New York.
Dodson, M.H. (1973) Closure temperature in cooling geochronological and petrological systems. Contrib. Mineral. Petrol. 40, 259-274.
Pullaiah, G. Irving, E. Buchan, K.L. and Dunlop, D.J. (1975) Magnetization changes caused by burial and uplift. Earth Planet. Sci. Lett. 28, 133-143.
Turner, G. (1968) The distribution of potassium and argon in chondrites. in Origin and distribution of the elements (ed. L.H. Ahrens), pp. 387-398. Pergamon, London.