日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL38] 地球年代学・同位体地球科学

2016年5月24日(火) 15:30 〜 16:45 303 (3F)

コンビーナ:*田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)、座長:佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)

15:30 〜 15:45

[SGL38-07] 樹木年輪の酸素同位体比データから復元する過去100年間の梅雨前線活動

★招待講演

*栗田 直幸1中塚 武2 (1.名古屋大学、2.総合地球環境学研究所)

キーワード:樹木年輪酸素同位体、降水酸素同位体、梅雨前線

古環境試料に記録されている酸素同位体比は、地球史を精密に復元するための指標(酸素同位体プロキシ)として古気候研究分野で一般的に使われている。一般的には、「降水の酸素同位体比は降水量や気温と相関関係を示す」という経験則に基づき、酸素同位体プロキシは降水量や気温の復元に用いられている。近年では、降水同位体観測の急増によって降水同位体比と気候変動の関係に関する理解が進み、その波及効果が酸素同位体プロキシの解釈にも及んでいる。例えば、「熱帯域における降水同位体比は、降水をもたらす積乱雲群の大きさに依存しており、降水量との相関はその結果である」という観測結果は、熱帯域における酸素同位体プロキシを「降水量」から「対流活動の活動度」の指標へと変化させた。日本においても、夏期の降水同位体比が梅雨前線の停滞位置と関係していることが明らかとなり、従来の古気候研究では取り扱われてこなかった情報を読み解くことが可能となっている。
本研究では、最新の水同位体研究の成果を古気候研究に応用し、中部日本で採取された樹木年輪の酸素同位体比(年輪同位体比)から過去の梅雨前線活動の復元に取り組んだ。年輪同位体比は、樹木が利用する水の同位体比および体内での生理作用によって決定されており、降水同位体比とは直接関係していない。そこで、年輪酸素同位体比を降水同位体比に変換する手法の検討を行った。まず、樹木年輪形成過程を考慮した数値モデル(プロセスモデル)を導入し、年輪同位体比から樹木が利用した水の同位体比(起源水の同位体比)の推定を行った。次に、過去17年間(1962-1979)東京で行われた月単位の降水同位体観測データを用い、推定した起源水同位体比との比較を行った。結果、起源水の同位体比は、6月の降水同位体比と最も高い相関関係を示した。そして、起源水の同位体比と降水同位体比の差は、6月の日照時間を使って再現できることをつきとめた。本研究では、日照時間の関数を使って過去100年間にわたる降水同位体比の復元(6月の平均値)を行った。
復元結果は、10年規模振動といった長期変化は小さいが、顕著な年々変動がみられた。そして、広域気象データが存在する1958年以降においては、同位体比の年々変化が梅雨前線活動と密接に結びついていることが明らかとなった。具体的には、(1) 降水同位体比と東海地方における梅雨入り日には有為な逆相関がみられる(R=−0.37, p<0.01)、(2) 梅雨入り時期の長期トレンドに対応した降水同位体比のトレンドがみられる、(3) 降水同位体比が平均値よりも顕著に高い(低い)年は、梅雨前線が太平洋沿岸から離れた(付近に)場所に停滞していることが明らかとなった。これらの結果から、復元した過去100年間にわたる降水同位体比は、梅雨入り時期や梅雨前線の停滞位置の指標であると結論できた。