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[SGL38-10] 南アルプス北東縁に位置する糸魚川-静岡構造線のESR年代測定
キーワード:南アルプス、糸魚川-静岡構造線、ESR年代測定、電子スピン共鳴、断層岩、スメクタイト
糸魚川-静岡構造線(糸静線)活断層系の一部である牛伏寺断層は,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(M9.0)以降,その活動性がさらに高まっている可能性が指摘されている。南アルプス及び周辺地域で東北地方太平洋沖地震前後に発生した地震の震源分布を見ると,地震活動が活発な牛伏寺断層の南東延長地域では,糸静線活断層系沿いでほとんど地震が発生しておらず,糸静線とは無関係にほぼ北北西-南南東ラインに並んでおり,将来このライン沿いで巨大地震が発生する可能性がある(福地・他,2016)。また,牛伏寺断層の南東延長部に位置する鳳凰山断層のさらに南方では,地質構造線としての糸静線の分布と震源分布が一致しており,地質境界である糸静線が地震発生に何らかの影響を与えている可能性が高い(福地・他,2016)。一方,鳳凰山断層石空川露頭の断層岩を用いたESR年代測定では,0.6±0.1Ma以降に活動したという結果が得られている(福地,2015)。そこで今回,鳳凰山断層石空川露頭の約10km南方に位置するドンドコ沢露頭における糸静線から採取した断層ガウジを用いてESR年代測定を実施した。
断層のESR年代測定では,理論的にはESR 年代値(Te)は実際の最新活動年代(Ta)の上限値を与えるので,Ta ≤ Teという関係式が成り立つ(福地,2015)。ドンドコ沢露頭では,中期中新世の鳳凰型花崗岩がマイロナイト化しているが,糸静線の断層面沿いには最近の断層活動により黒色の断層ガウジが形成されている。X線回折分析では,黒色ガウジからスメクタイトが検出されており,黒色ガウジは比較的浅所で生成されたと推定される。スメクタイトは,天然では110℃よりも低い温度で安定的に存在できると考えられる(吉村,2001)ので,ドンドコ沢露頭(高度約1,395m)周辺の地温勾配を3℃/100m,平均隆起速度を2~3mm/yと仮定すると,黒色ガウジ中のスメクタイトの生成年代は約170~250万年以降と見積もられ,ドンドコ沢露頭では第四紀に糸静線が活動した可能性が高いことが判明した。一方,黒色ガウジ中の石英から検出されるAl中心の超微細構造(g=2.0187)を利用してESR年代測定を行った結果,0.55±0.12Ma(決定係数R値91.2%)という年代値が得られた。従って,ドンドコ沢露頭周辺の糸静線の最新活動時期は,0.55±0.12Ma以降と推定される。
引用文献
福地龍郎,2015, ESR年代測定法による 断層活動性評価.日本地球惑星科学連合2015年大会講演要旨, SGL39-01.
福地龍郎・他,2016,南アルプス及び周辺地域の活断層分布と地震活動変化.山梨大学教育人間科学部紀要,第17巻,p.219-226.
吉村尚久編著,2001,粘土鉱物と変質作用,地学双書32,293pp.
断層のESR年代測定では,理論的にはESR 年代値(Te)は実際の最新活動年代(Ta)の上限値を与えるので,Ta ≤ Teという関係式が成り立つ(福地,2015)。ドンドコ沢露頭では,中期中新世の鳳凰型花崗岩がマイロナイト化しているが,糸静線の断層面沿いには最近の断層活動により黒色の断層ガウジが形成されている。X線回折分析では,黒色ガウジからスメクタイトが検出されており,黒色ガウジは比較的浅所で生成されたと推定される。スメクタイトは,天然では110℃よりも低い温度で安定的に存在できると考えられる(吉村,2001)ので,ドンドコ沢露頭(高度約1,395m)周辺の地温勾配を3℃/100m,平均隆起速度を2~3mm/yと仮定すると,黒色ガウジ中のスメクタイトの生成年代は約170~250万年以降と見積もられ,ドンドコ沢露頭では第四紀に糸静線が活動した可能性が高いことが判明した。一方,黒色ガウジ中の石英から検出されるAl中心の超微細構造(g=2.0187)を利用してESR年代測定を行った結果,0.55±0.12Ma(決定係数R値91.2%)という年代値が得られた。従って,ドンドコ沢露頭周辺の糸静線の最新活動時期は,0.55±0.12Ma以降と推定される。
引用文献
福地龍郎,2015, ESR年代測定法による 断層活動性評価.日本地球惑星科学連合2015年大会講演要旨, SGL39-01.
福地龍郎・他,2016,南アルプス及び周辺地域の活断層分布と地震活動変化.山梨大学教育人間科学部紀要,第17巻,p.219-226.
吉村尚久編著,2001,粘土鉱物と変質作用,地学双書32,293pp.