日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL38] 地球年代学・同位体地球科学

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)

17:15 〜 18:30

[SGL38-P05] 同位体ナノスコープを用いたジルコン中放射壊変起源ヘリウム分析法の開発

*吉成 耕一1馬上 謙一1圦本 尚義1 (1.北海道大学大学院理学研究院自然史科学専攻)

キーワード:ジルコン、U-Th-He法、4-He、LIMAS

ジルコン (ZrSiO4) は、ジルコニウムを含むケイ酸塩鉱物であり、非常に幅広い岩石に含まれている。ジルコンは、ウラン、トリウムを豊富に含み、それらの放射壊変起源の鉛、ヘリウムを含む (e.g., Reiners et al., 2004)。ジルコンは変質、変成、火成作用などを受けづらく安定であるという性質があるため、U-Pb年代測定を通して、太古の年代学に用いられている。
一方、U-Th-He法は、山脈の隆起、削剥史解明のための、低温における熱履歴の解析に利用されている (e.g., 末岡ら., 2011)。U-Th-He法に使われるヘリウムを高い空間分解能で測定すると、α崩壊による鉱物からのα粒子 (4He) の散逸を、より正確に評価できると考えられる。本研究では、天然ジルコン中の放射壊変起源ヘリウムを、従来法よりも高い空間分解能で測定するために、同位体ナノスコープLIMASを用いて定量することを目的とした。
同位体ナノスコープLIMASは、Ga収束イオンビーム、fsレーザー、周回型質量分析器MULTUMⅡからなる装置である。LIMASでは、サンプル表面から原子を、Gaイオンビームのスパッタにより真空中に放出させ、それらの中性粒子をfsレーザーによってイオン化し、そのイオンを多重周回型質量分析計MULTUMⅡで周回させ、質量スペクトルを得ることができる。
本研究では、U-Pb法などの標準物質として使用されているジルコン91500をLIMASによって分析した。ジルコン91500のU - Pb年代は1065 My (Wiedenbeck et al., 2004)、ウラン、トリウム濃度はそれぞれ80 ppm、30 ppm (Wiedenbeck et al., 2004) である。そのヘリウム濃度は、U-Th-He法の関係式から推定した場合、脱ガスしていないと仮定すると約55 ppmである。
本研究でのヘリウムの定量は、理論的には、ヘリウム、ケイ素のピークから得られる、イオンの個数データを元に算出したHe/Si比に、ジルコン中にケイ素が存在する割合と、ヘリウムとケイ素のイオン化効率の比を乗じることで求めることができる。
今回の実験データで得られた、ヘリウム濃度は38 ± 4 ppmであった。ただし、これにはLIMAS試料室の残留ガスのヘリウムが上乗せされていることがブランク分析を行う事で分かった。そこで、測定で得られたヘリウム強度からブランク量を引くことで、試料中のヘリウム濃度とした。その結果、ヘリウム濃度は30 ± 5 ppmとなった。これは、推定値 (約55 ppm) の55%ほどであった。
本研究では、U-Th-He年代測定について、新しいヘリウム法およびヘリウム定量法を開発した。これはマイクロメートルスケールでのU-Th-He年代学を考察する上で有用な分析手法であると期待される。