17:15 〜 18:30
[SGL40-P01] 熊野海盆外縁隆起帯における泥火山活動報告
キーワード:熊野海盆外縁隆起帯、泥火山、音響観測
南海トラフ地震発生帯掘削プロジェクト(NanTroSEIZE)の事前調査として実施された3D地震波探査結果に基づいて十年来存在が指摘されてきた、水深2000m程度の熊野海盆外縁隆起帯における泥火山活動を、2015年6月に調査船「よこすか」(海洋研究開発機構)およびAUV「うらしま」(同)による音響観測で確認した。熊野海盆外縁隆起帯は、ごく平坦な海底地形を呈する熊野海盆の南端を縁取る、深く切れ込む沢と尾根を持つ帯状構造であり、天竜海底谷から潮岬海底谷を経て室戸沖あたりまで連続する(Moore et al., 2009; Martin et al., 2010)。泥火山活動は、熊野海盆南端付近に存在する南西側スウェルの南東部分、かつ熊野海盆外縁隆起帯のすぐ北側(熊野海盆側)に発現している。
【観測結果】
AUV「うらしま」は海底からおよそ100m程度の高度を2.0~2.5ノット程度で航行した。AUVで使用した音響観測装置は、マルチビーム測深機(MBES, Seabat7125, 400kHz)、サイドスキャンソーナー(SSS, EdgeTech2200, 120kHz)、サブボトムプロファイラー(SBP, EdgeTech2200, 1~6 kHzチャープ式)である。AUV尾部に搭載したpHセンサは1分間隔でデータを取得した。調査船「よこすか」搭載のMBES (KongsbergEM122, 12 kHz)は地形と同時に音波の後方散乱強度分布を取得した。
潜航の結果、AUV「うらしま」搭載のMBESでは、直径約500m、比高約80mの山体と、その山体西側斜面にカルデラ状の地形を確認した。同搭載のサイドスキャンソーナーにてカルデラ状地形の中にはドーム状の高まりとメガリップルマーク様のパターンを確認し、「うらしま」尾部に取り付けたpHセンサによりカルデラ状地形直上水塊にpH異常を確認した。また、同搭載のサブボトムプロファイラーにより、山体直下に音響的不透明bodyが存在し、堆積層を上方にドラッグする様子を確認した。この特徴を以降「山体(泥火山)」と呼ぶ。山体(泥火山)の北西側の断層面とそれに連続する上盤側海底面には、周囲の堆積物よりも明らかに音波後方散乱強度が高い領域が存在し、海底面を覆う何らかの「平坦かつ相対的に堅い」物質の存在がある。山体(泥火山)の南西およそ5.5 kmの地点には、高さ数mのチムニー様構造を伴う露頭の存在を、音響観測にて確認した。
さらに船舶搭載のマルチビーム測深機を用いて広域に音響調査を行ったところ、地形図は、直径がおよそ12kmにも及ぶ熊野海盆南西の地形的高まりと(以降「南西スウェル」と呼ぶ)、それを切る構造群を描き出した。南西スウェルを切る構造線の走向は、山体(泥火山)北側でN30E程度、より西側ではN10E程度で、地形的には連続しているように見え、南西スウェル付近でN30E~N40Eを示す熊野海盆外縁隆起帯の走向に斜交する。音波の後方散乱強度分布は、山体(泥火山)を東端にしてチムニー様構造を伴う露頭周辺を含む一連の、かつ南西スウェルからN10E構造線により切り離された南側の高まりに相当する位置に、平面規模にして最大で3km×7kmに及ぶ異常な地質構造体の存在を示唆する。
【解釈】
南西スウェルは2D地震波探査記録(CDEX Technical Report., 2005)によれば、音響的透明層に下支えされた堆積層である可能性がある。山体(泥火山)は南西スウェルがN10E構造線の東側延長と交差する一部に、近隣のチムニー群は南西スウェルがN10E構造線で切り離された南方の地形的高まりに存在して、これらが後方散乱強度分布異常域(船舶搭載MBESによる)に入る。Moore et al. (2013)はN10E構造線群の存在を認め、正断層であると解釈した。我々の観測事実と周辺地質を考慮すると、山体(泥火山)は、N10E構造線とKBEFZに挟まれたくさび形の海域東端に、南西スウェルが関与して海底面に現れた、地下深部物質(あるいは流体)に依存して形成された特異な地質体の一部であると解釈する。さらに、N10E構造群から地形図上で連続して見える、山体(泥火山)の北側断層面には崖面と直上の海底面に高い後方散乱強度分布が示された(AUV搭載SSSによる)ので、この断層面は接続する海底面に「海底を局地的に堅くする何らかの要因」を、言い換えれば地下由来流体を、運搬しうる役割を担う可能性がある。今後はこれら特異な地質体からサンプリングを行って特徴を抽出することと、近隣に設置されているDONET観測網の情報から特異な地質体の活動を捉える試みを、目標にする。同時に陸上に観測される泥火山活動などを例にして、熊野海盆外縁隆起帯における泥火山活動の詳細を推測したい。
【観測結果】
AUV「うらしま」は海底からおよそ100m程度の高度を2.0~2.5ノット程度で航行した。AUVで使用した音響観測装置は、マルチビーム測深機(MBES, Seabat7125, 400kHz)、サイドスキャンソーナー(SSS, EdgeTech2200, 120kHz)、サブボトムプロファイラー(SBP, EdgeTech2200, 1~6 kHzチャープ式)である。AUV尾部に搭載したpHセンサは1分間隔でデータを取得した。調査船「よこすか」搭載のMBES (KongsbergEM122, 12 kHz)は地形と同時に音波の後方散乱強度分布を取得した。
潜航の結果、AUV「うらしま」搭載のMBESでは、直径約500m、比高約80mの山体と、その山体西側斜面にカルデラ状の地形を確認した。同搭載のサイドスキャンソーナーにてカルデラ状地形の中にはドーム状の高まりとメガリップルマーク様のパターンを確認し、「うらしま」尾部に取り付けたpHセンサによりカルデラ状地形直上水塊にpH異常を確認した。また、同搭載のサブボトムプロファイラーにより、山体直下に音響的不透明bodyが存在し、堆積層を上方にドラッグする様子を確認した。この特徴を以降「山体(泥火山)」と呼ぶ。山体(泥火山)の北西側の断層面とそれに連続する上盤側海底面には、周囲の堆積物よりも明らかに音波後方散乱強度が高い領域が存在し、海底面を覆う何らかの「平坦かつ相対的に堅い」物質の存在がある。山体(泥火山)の南西およそ5.5 kmの地点には、高さ数mのチムニー様構造を伴う露頭の存在を、音響観測にて確認した。
さらに船舶搭載のマルチビーム測深機を用いて広域に音響調査を行ったところ、地形図は、直径がおよそ12kmにも及ぶ熊野海盆南西の地形的高まりと(以降「南西スウェル」と呼ぶ)、それを切る構造群を描き出した。南西スウェルを切る構造線の走向は、山体(泥火山)北側でN30E程度、より西側ではN10E程度で、地形的には連続しているように見え、南西スウェル付近でN30E~N40Eを示す熊野海盆外縁隆起帯の走向に斜交する。音波の後方散乱強度分布は、山体(泥火山)を東端にしてチムニー様構造を伴う露頭周辺を含む一連の、かつ南西スウェルからN10E構造線により切り離された南側の高まりに相当する位置に、平面規模にして最大で3km×7kmに及ぶ異常な地質構造体の存在を示唆する。
【解釈】
南西スウェルは2D地震波探査記録(CDEX Technical Report., 2005)によれば、音響的透明層に下支えされた堆積層である可能性がある。山体(泥火山)は南西スウェルがN10E構造線の東側延長と交差する一部に、近隣のチムニー群は南西スウェルがN10E構造線で切り離された南方の地形的高まりに存在して、これらが後方散乱強度分布異常域(船舶搭載MBESによる)に入る。Moore et al. (2013)はN10E構造線群の存在を認め、正断層であると解釈した。我々の観測事実と周辺地質を考慮すると、山体(泥火山)は、N10E構造線とKBEFZに挟まれたくさび形の海域東端に、南西スウェルが関与して海底面に現れた、地下深部物質(あるいは流体)に依存して形成された特異な地質体の一部であると解釈する。さらに、N10E構造群から地形図上で連続して見える、山体(泥火山)の北側断層面には崖面と直上の海底面に高い後方散乱強度分布が示された(AUV搭載SSSによる)ので、この断層面は接続する海底面に「海底を局地的に堅くする何らかの要因」を、言い換えれば地下由来流体を、運搬しうる役割を担う可能性がある。今後はこれら特異な地質体からサンプリングを行って特徴を抽出することと、近隣に設置されているDONET観測網の情報から特異な地質体の活動を捉える試みを、目標にする。同時に陸上に観測される泥火山活動などを例にして、熊野海盆外縁隆起帯における泥火山活動の詳細を推測したい。