日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

インターナショナルセッション(口頭発表)

セッション記号 S (固体地球科学) » S-IT 地球内部科学・地球惑星テクトニクス

[S-IT12] Tectonic processes on the incoming plate seaward of the trench: Inputs to subduction zones

2016年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 201B (2F)

コンビーナ:*山野 誠(東京大学地震研究所)、森下 知晃(金沢大学理工研究域自然システム学系)、藤江 剛(海洋研究開発機構)、Straub Susanne(コロンビア大学ラモント地球科学研究所)、座長:藤江 剛(海洋研究開発機構)

14:45 〜 15:00

[SIT12-05] Mantle hydration along the outer rise faults inferred from permeability of serpentinites

*畠山 航平1片山 郁夫1 (1.広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)

キーワード:permeability, serpentinite, outer rise fault, hydraulic diffusivity, water transport

近年の地震波探査では地震波速度が遅い領域が沈み込み帯のアウターライズ領域で観測されており、海洋マントルの含水化(蛇紋岩化)が示唆されている (Ranero et al., 2003; Fujie et al., 2013など)。海洋マントルの含水プロセスについては、アウターライズ断層が海洋リソスフェアを断裂させ、海洋マントルにおいて断層沿いに蛇紋岩化が進行していると述べられている(Ranero et al., 2003など)。海洋マントルが従来よりも多く含水しているのならば沈み込む水の総量は多くなることが予想される(Peacock, 2001)。また、海洋スラブ内で発生する稍深発地震は海洋マントルの脱水と関連していると報告されている(Seno and Yamanaka, 1996)。このように海洋マントルの蛇紋岩化は地震発生メカニズムと沈み込む水の収支に重要な役割を担っている。
海洋マントルでの蛇紋岩の広がりについては、蛇紋岩化の反応速度が比較的速いため(Martin and Fyfe, 1970)、マントル反応前線への水の供給速度に律速されると考えられている (Macdonald and Fyfe, 1985)。マントル反応前線に供給される水は既存の蛇紋岩を通過する水であるため、蛇紋岩の浸透率が重要となる。そこで本研究では、低温型蛇紋岩の浸透率を測定し、水理拡散率を計算することでアウターライズ断層沿いの蛇紋岩化の広がりを検証した。試料は嶺岡帯に産出する低温型蛇紋岩とパレスベラ海盆、南マリアナ海溝、トンガ海溝からドレッヂした試料を用いた。実験は広島大学設置の容器内変形透水試験機を使用し、間隙流体として窒素ガスを用いた定差圧流量法によってダルシーの法則から気体浸透率を測定した。なお、間隙流体に気体を用いるため、気体浸透率からクリンケンベルグ効果を用いて固有浸透率を求めた。
浸透率は封圧5~100MPaで10-16~10-21m2と封圧増加に伴い低下した。得られた浸透率から、水理拡散率を計算するとトンガ海溝産試料において封圧100MPaで3.8×10-5m2/secとなる。流体が断層沿いに供給される時間を100万年とすると海洋マントル最上部で流体は断層沿い両側で17km広がり、深くなるにつれて狭くなっていく。蛇紋岩化作用の反応速度は地質学的にかなり速いため流体の移動距離を蛇紋岩化の広がりとみなすことができる。アウターライズ断層沿いの蛇紋岩化から海洋マントルが地球内部へ輸送する水の総量を計算すると2.2×1012kg/yearとなり、海洋地殻が輸送する水の総量(1.3×1012kg/year)よりも多いことが予想される。そして、火成活動による地球内部からの水輸送量よりも多いため、現在の海水は減少しているのかもしれない。