日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP42] 鉱物の物理化学

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*興野 純(筑波大学大学院生命環境科学研究科地球進化科学専攻)、大藤 弘明(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)

17:15 〜 18:30

[SMP42-P01] ヒューマイト族における水素席の安定性と水素結合

*神崎 正美1 (1.岡山大学地球物質科学研究センター)

キーワード:ヒューマイト族、水素結合、第一原理計算、結晶構造、水素席、トパーズ-OH

天然のヒューマイト族鉱物(norbergite, chondrodite, humite, clinohumite)はFとOH両方を含み、一般にFの方が多いがが、高圧下では完全にOHのみの相が安定化する(chondrodite-OH, clinohumite-OH)。Tiに富む場合にはTiO2 = Mg(OH)2の置換により、OH量がその分減少する。これまでに天然および合成結晶の多くの構造解析が行なわれている。それらを水素位置に関してまとめると、clinohumite-OHとchondrodite-OHについては、水素はH1とH2の2つの席を1/2の確率で占有している。なお、H1席を100%占有すると、H1同士が近距離で接近するためにエネルギー的に不利だと見なされている。一方、FやTiを多く含む天然試料ヒューマイト族においては、H1席のみが報告されている。古典的なエネルギー計算によると(Abott et al., AmMin, 1989)、相対的にH2席が安定で、FやTiがある場合にはさらにH2席が安定になると予想されているが、これは実際の構造解析結果とは矛盾する。この矛盾の解消を含め、H1, H2席の安定性とそれへの水素結合の寄与を理解するためにヒューマイト族の第一原理計算を行った。OHをFで半分置き換えた場合や、Ti固溶でOHが半減した系についても計算を行った。
第一原理計算による構造最適化はQuantum-Espressoパッケージを使った。GGA近似を使うPAWポテンシャルを使った(pbesol-kjpaw_psl)。最初に構造モデルを作り、それをpw,xで構造最適化して、系のエネルギーを得た。その電子状態を使ったNMR計算も行った。得られたプロトンのNMR化学シフトは水素結合の目安となる。Tiを含む系(chondrodite)では1x2x1のスーパーセルを使ったが、それ以外は単位格子で計算を行った。
F,Tiを含まない系において、H1席100%占有とH2席100%占有の場合を比べると、意外にもH1席100%占有の方がエネルギーが低かった。これは実際にはH1ーH1間距離が伸びるためである。H1, H2席を同時に1/2占める場合については、いくつかの配置モデルが考えられるが、その内の半分は上記のH1, H2席を100%占める場合と同じ局所の配置を持つが、他の半分はO-H1...O-H2(...は水素結合を示す)の配置を持つ。後者の場合には、H1席を単独で占めるよりもさらにエネルギーが下がることが分かった。これはこの配置では、H1-H1間の反発が完全に解消され、加えてより直線的な水素結合がO-H1...Oにできるためである。したがって、最安定なのはH1, H2席を1/2占有し、かつO-H1...Oの配置をとる場合と予想された。これは構造解析結果と調和的である。
一方、FやTiを多く含む天然結晶の場合には、OH量自体が半分以下となるため、O-H1...Oの水素結合が作れなくなる。したがって単独にH1席またはH2席を占有した配置のみが問題となる。計算によると、どの系においてもH1席がH2席よりもエネルギー的に安定と分かった。これはOH存在量が少ないため、H1-H1の反発はもはや問題とならず、H1席が安定化されるためである。Ti固溶する場合は、Ti八面体の酸素はunderbondingな状態であり、水素結合アクセプターとなることから、H1席はTi八面体の酸素とより強い水素結合を作れるが、H2席はそうではない。この効果で、Tiを固溶する場合にはH1席がさらに安定化する。この結果は、FやTiを含む結晶の構造解析においてH1席のみが観察されたことと一致する。
今回の計算からは、H1席が本来安定であるが、占有率が50%を超えると、H1-H1間の反発を防ぐために、より不安定なH2席を占有するようになると解釈できる。同じような現象がtopaz-F(OH)においても存在しており、同様に解釈できる。水素結合が含水鉱物の構造安定性に大きな影響を持っていることが分かる。