日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP43] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2016年5月25日(水) 09:00 〜 10:30 201B (2F)

コンビーナ:*河上 哲生(京都大学大学院理学研究科)、針金 由美子(産業技術総合研究所)、座長:吉田 健太(大阪市立大学大学院理学研究科)

09:30 〜 09:45

[SMP43-03] 領家帯三河地域の片麻状花崗岩類から得られた広域変成作用よりも若いU-Pbジルコン年代

*高塚 紘太1河上 哲生1スクリペク エティエン1坂田 周平2大林 秀行1平田 岳史1 (1.京都大学、2.東京大学)

キーワード:領家帯、LA-ICP-MS、U-Pbジルコン年代、片麻状花崗岩類

領家帯は白亜紀後期の高温低圧型変成岩類と深成岩類から構成されており, アジア大陸東縁におけるマグマ活動を記録している. 愛知県三河地域では広域変成作用時から連続的に深成岩類が貫入しているため[1], 海洋プレートの沈み込みに伴う長期間のマグマ活動の時間空間変化と高温低圧型変成岩類形成の関係を観察することができる.
本地域に産する花崗岩類は岩相や貫入関係に基づいて岩体の区分がなされてきた[2]. 中でも, 片麻状構造を持ち古期領家花崗岩類に分類される神原トーナル岩と天竜峡花崗岩は本地域に広く点在し, 領家広域変成作用の熱源となった深成岩類と考えられている[3]. このことはCHIMEモナズ石年代 (領家変成岩, 102-98 Ma; 神原トーナル岩, 約95 Ma; 天竜峡花崗岩, 約91 Ma) [1]や, 古期領家花崗岩類の多くが変成岩の構造的下位に分布していることからも支持されてきた.
しかし近年, 山口県柳井地域の領家帯では, 一部の花崗岩類でU-Pbジルコン年代とCHIMEモナズ石年代の不一致や, 塊状花崗岩類が片麻状花崗岩類より古いU-Pbジルコン年代を示すことが報告されている[4]. 本研究では, 愛知県三河地域の領家帯に産する片麻状花崗岩類について, LA-ICP-MSによるU-Pbジルコン年代測定及び岩石学的観察に基づき, 片麻状構造の有無が, 花崗岩貫入時期の適切な指標であるかを検討した.
本研究で用いた試料は, 足助図幅地域内の下山に産する神原トーナル岩2試料, 蒲郡から豊川にかけて産する神原トーナル岩1試料と天竜峡花崗岩3試料である. 全ての試料に黒雲母や角閃石の配列による片麻状構造が見られ, その構造は岩体周辺の変成岩類と調和的である. 豊川の岩体は, 本地域で最も変成度の高いざくろ石-菫青石帯の変成岩類中に貫入している[5]. 蒲郡の岩体は珪線石-カリ長石帯[6]の変成岩類の構造的下位に貫入している. これらの岩体と変成岩類との接触部は確認されていない. 下山の岩体は黒雲母帯の見かけ上位に産するが, どの変成度の変成岩類に貫入しているかは明かではない.
上記6試料に対してLA-ICP-MSによるU-Pbジルコン年代測定を行った. 年代値はコンコーダントな分析点の238U-206Pb加重平均年代 (±2σ) として示す. 豊川の岩体から得られた年代値は77.5±0.6 Ma及び 77.1±0.6 Maであり, 蒲郡の岩体から得られた年代値はともに81.1±1.0 Maであった. 下山の岩体から得られた年代値は98.9±0.9 Ma及び99.4±0.9 Maであった. これらの年代値は各岩体の固結年代と解釈できる.
蒲郡では, 本研究で採取した試料と同じ岩体から92.2±6.0 MaのCHIMEモナズ石年代[1]が報告されているが, 本研究で得られたU-Pbジルコン年代より約10 Ma古い. 現段階においてU-Pbジルコン年代とCHIMEモナズ石年代の差異の原因は明らかではない.
下山の片麻状花崗岩体から得られた約99 Maの年代値は, 変成岩類から報告されているCHIMEモナズ石年代 (102-98 Ma) [1]と調和的である. 一方, 豊川及び蒲郡の片麻状花崗岩体から得られた81-77 Maの年代値は, 本地域の領家広域変成作用のピーク年代と解釈されているミグマタイト中のジルコンのSHRIMPによるU-Pb年代 (優白質部, 87.4±0.2 Ma; 優黒質部, 87.1±0.5 Ma) [7]より若い. 従って, 花崗岩類の片麻状構造の有無から, 領家広域変成作用の昇温期およびピーク変成期に活動した花崗岩類であるか否かの判断はできない. さらに, 豊川及び蒲郡に露出する片麻状花崗岩類の年代値は変成岩類のピーク年代より若く, これらの岩体が領家広域変成作用の熱源になるとは考えにくい.

引用文献
[1]Suzuki & Adachi, 1998, JMG. [2]領家研究グループ, 1972, 地球科学. [3]原山ほか, 1985, 地球科学. [4]Skrzypek et al., in review. [5]宮崎ほか, 2008, 御油地域5万分の1図幅. [6]Asami, 1977, 岩鉱. [7]Nakajima et al., 2013, SHRIMP Workshop講演要旨.